私たちの「迷走」を静かに見守っていた5つの証人たち
糊のきいた浴衣の帯:指先に触れるパリッとした硬い質感と、かすかに漂う清潔なリネンの香り。大人の余裕を完全に捨てて「誰が一番早く結べるか」という不毛な賭けに興じ、結果的にぐちゃぐちゃになった帯姿で転げ回った私たちの、あの滑稽で幸福な時間をこの帯は記憶している。
冷えたグラスの結露:テーブルに刻まれた、冷たい水滴が描く不規則な輪っか。ウェルカムドリンクを啜りながら「明日の日出は絶対に見られる」と根拠なく言い切ったあの自信満々な顔と、翌朝、全員が深い眠りに落ちて絶望したあの対比を、この透明な雫は知っている。
ベッドシーツのひんやりした感触:肌に触れた瞬間、心地よく背筋が伸びるような、凛とした清潔な冷たさ。深夜3時まで、「誰の人生が一番詰んでいるか」というどうでもいい議論に花を咲かせ、笑いすぎて腹筋が痛くなったあの時間の体温を、この真っ白な布は静かに吸い込んでいる。
温泉バッグのナイロンの持ち手:肩に食い込む、少しだけざらついた無機質な質感。ビールサービスが終わる前に大浴場へ駆け込もうと、まるでオリンピックの決勝戦のような速度で廊下を疾走した私たちの、あの切迫した足音と高揚した鼓動を、このバッグは聞いていた。
遮光カーテンのわずかな隙間:部屋の静寂を切り裂くように差し込む、鋭い一本の光の線。アラームが鳴った瞬間に「あと5分だけ」と全員で合意し、結局1時間後に飛び起きた私たちの、あの心地よい敗北感と、焦燥に満ちた叫びを、この光の線は静かに見守っていた。
もし、この部屋の壁が口をきけるとしたら
おそらく彼らは、私たちのことを「騒がしいけれど、どこか不器用な塊」と呼ぶのだろう。グランヴィリオホテル別府湾 和蔵のオーシャンルームに足を踏み入れたとき、まず感じたのは冬の澄み切った空気と、それとは対照的な、和の空間が持つ深い静寂だった。けれど、私たちがそこに集まった瞬間、その静寂は心地よいノイズに塗り替えられた。
私たちの関係は、まるで別府湾に寄せては返す波のようだ。激しくぶつかり合い、泡を立てて騒ぎ立てるけれど、最後には穏やかに一つの岸辺に辿り着く。そんな不器用な調和がここにはあった。
「ちょっと待って、あんた浴衣前後逆じゃない?」
誰かが気づいて吹き出した瞬間、連鎖的に全員が崩れ落ちるように笑った。その笑い声が、ホテルの高い天井に吸い込まれ、心地よく反響する。あんなにくだらないことで笑い合える時間が、実は何よりも贅沢なことだったのだと、今ならわかる。朝食のバイキングで、小さなグリルに野菜を焼きながら「誰が一番いい焼き色をつけられるか」なんて競い合っていた時間。正解なんてどこにもなかったけれど、その不確かさが、旅という非日常の中で心地よかった。
結局、私たちは計画したことの半分も達成できなかった。けれど、窓の外に広がる別府湾の深い群青色を眺めながら、ただぼーっと思考を止めたあの空白の時間こそが、私たちの関係に必要だった最後のピースだったのだと思う。
夜明け前の別府湾が、淡い群青色からゆっくりと白に溶けていく。
- 迷わず「オーシャンルーム」を。窓を開けた瞬間に流れ込む潮風が、思考を真っ白にしてくれる。
- 湯上がりの無料ドリンクサービスは必須。冷えた体と心に、あの小さな贅沢が心地よく染み渡る。