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冷えた指先と、硫黄の匂いが混ざる夜

冷えた指先と、硫黄の匂いが混ざる夜

凍てつくプラットホームと、迷走の始まり

金属的な冷たさを孕んだ冬の風が、別府駅のプラットホームを容赦なく吹き抜けていく。十二月の空気は、肺の奥までキリリと締め付けられるような鋭さを持っていて、吐き出す息は白く、すぐに夜の闇に溶けて消えた。足元では、誰かが持ってきた大きなスーツケースのキャスターが、アスファルトの上でガタガタと不規則なリズムを刻んでいる。その騒々しい音が、旅の始まり特有の、期待と不安が混ざり合った私たちの落ち着かない気分にぴったりだった。

「ねえ、本当にこの道で合ってるの?」

誰かが不安げに呟いたが、ナビゲーションを担当していたはずの君は、至って自信満々に前を歩いている。私たちは密かに賭けていた。このグループの中で、誰が一番早く道を間違えるか。結果は明白だった。駅を出てわずか三分後、君は確信に満ちた足取りで、目的地とは真逆の方向へと私たちを導いたのだ。呆れ果てた笑い声が上がり、私たちは震える肩を寄せ合いながら、冷たい冬の街へと踏み出した。旅という一滴の濃いインクが、いま、真っ白な地図の上にぽつりと落とされた瞬間だった。

街に舞う白煙と、偶然の温もり

駅を離れ、街へと深く入り込むにつれ、至る所から白い蒸気が噴き出していた。それはまるで、街全体が深く長い呼吸を繰り返しているかのような、幻想的な光景だった。不意に鼻をくすぐったのは、別府という街の象徴ともいえる、濃厚な硫黄の匂い。最初は「ちょっと匂い強くない?」と誰かがぼやいたけれど、歩き続けるうちに、その独特な香りが冬の冷気と混ざり合い、不思議と心を落ち着かせる安らぎの香りに変わっていった。

波止場神社へ向かう途中で、私たちはあえて地図を閉じ、迷路のように入り組んだ路地へと迷い込んだ。雨上がりの濡れた路面が街灯を反射して、鈍い銀色に光っている。ふと立ち止まったとき、靴底からじんわりと心地よい熱が伝わってきた。マンホールから漏れ出す、地球の鼓動のような熱気。その温度に触れた瞬間、旅の緊張で張り詰めていた気持ちが、ふっと緩むのがわかった。

「あ、ここあったかい。なんか、歓迎されてるみたいだね」

インクが水にゆっくりと溶け出すように、私たちの緊張もまた、この街の湿度と温もりに浸透していく。予定していた観光スポットをいくつか飛ばして、ただあてもなく歩くこと。それがこの旅において、最も正しく、最も贅沢な選択だったという気がしてならない。

畳の香りと、藍色の静寂に包まれて

ホテルニューツルタの重厚な扉を開けた瞬間、外の刺すような寒さが嘘のように消え去った。ロビーに漂う、どこか懐かしい古い木の香りと、静かに流れる時間。チェックインを済ませて部屋に入った瞬間、私たちは同時に歓声を上げた。目の前に広がっていたのは、広々とした五十五平米の和室ラージ。畳のい草の清々しい香りが鼻を抜け、裸足で踏みしめた床の心地よい弾力が、旅の疲れを静かに受け止めてくれる。

そこから始まったのは、誰がどこのスペースを確保するかという、くだらないけれど至極真剣な領土争いだ。「窓側は私の特等席!」と叫びながら、大人のすることとは思えない勢いで畳にダイブする誰か。結局、一番年上のやつが一番端っこに追いやられたけれど、それでもみんな満足そうに、柔らかい畳の上に転がっていた。

窓の外に広がる別府湾は、深い藍色からゆっくりと夜の黒へと溶け込んでいく。その境界線が曖昧になる時間を眺めながら、私たちはコンビニで買ったお菓子を広げた。誰かが持ってきた、少しだけ潰れたポテトチップスの袋を開ける乾いた音。それが静かな部屋に響き、なんだかとても贅沢な音楽のように感じられた。豪華な設備よりも、この「何もないけれど、誰と一緒にいてもいい」という絶対的な安心感こそが、私たちが本当に求めていたものだったのかもしれない。

その後、展望大浴場で身体を芯から温めた。源泉掛け流しの湯に浸かると、皮膚の表面がじんわりと赤くなり、強張っていた筋肉がゆっくりと解けていく。湯船に浸かりながら、私たちは明日、誰が一番に起きるかという不毛な賭けを始めた。そんな些細な出来事が、この旅の輪郭を鮮やかに彩っていく。インクはもう、完全に紙に染み込み、消えない記憶として定着していた。ホテルニューツルタの静かな夜は、私たちの騒がしい友情を優しく包み込み、心地よい眠りへと誘ってくれた。

窓の外で、遠い街の灯りが小さく瞬いている。

  • 徒歩圏内の「喫茶ピリカ」で、旅の計画をあえて白紙に戻す時間を過ごしてほしい。
  • 五十五平米の和室で、あえて照明を落として、夜の別府湾の色が変わるのを眺めてみて。