← 戻る 亀の井ホテル 別府

ぬるいお湯と、深夜二時のくだらない言い争い

ぬるいお湯と、深夜二時のくだらない言い争い

私たちの「大人のふり」を静かに笑っていた5つの目撃者

エキストラベッド:張り詰めたシーツのざらつきと、寝返りを打つたびに鳴る情けない金属音。誰がどこで寝るかという、大の大人が本気でぶつかり合った「領土紛争」のすべてを、このベッドは静かに見守っていた。深夜、誰かが小さく笑い声を漏らすたびに、スプリングが共鳴して私たちの不器用な距離感を正確に刻んでいた気がする。

駄菓子コーナーの棚:鼻をくすぐる甘い砂糖の匂いと、色とりどりのプラスチック包装が放つ懐かしい光沢。社会人としての仮面を被った私たちが、限定のお菓子を巡って「どっちが先か」と、まるで7歳に戻ったように言い争っていた。あの棚は、私たちが捨てたつもりだった幼稚さを、慈しむように回収していたのだろう。

温泉上がりの濡れたタイル:足の裏に吸い付くひんやりとした湿り気と、脱衣所に立ち込める濃厚な湯気。湯上がりで思考が溶け出した3人が、狭いスペースでドライヤーを奪い合い、踊るように右往左往していたあのカオス。誰かが足を滑らせて「危ない!」と叫んだ瞬間、緊張が弾けて笑いに変わったあの温度を、床は今も覚えているはずだ。

窓の結露:指先で触れるとじわりと広がる冷たい水滴と、外の刺すような冬の空気。部屋の中は、誰かが持ち込んだおつまみの香ばしい匂いと、くだらない冗談で熱を帯びていた。窓ガラスに指で適当な落書きをしたとき、「明日になれば消えてしまう自由」を、私たちは必死に繋ぎ止めていたのかもしれない。

ビュッフェの大きな皿:地元の滋味溢れる料理を山盛りにした、ずっしりとした磁器の重み。お互いの皿を見て「盛りすぎだろ」と笑い合いながら、結局は全員が同じように食べ過ぎて、心地よい胃もたれに身を任せていた。あの白い皿は、遠慮という言葉を完全に忘れた、剥き出しの幸福感を乗せていた。

もしこの部屋が口をきけるとしたら

おそらくこの部屋は、私たちのことを「迷子になった大人の集団」と呼ぶだろう。亀の井ホテル 別府の整った洋風のインテリアが、トリプルルームに乱雑に放り出された荷物や、脱ぎ散らかされた靴下によって侵食されていく過程は、心地よい破壊だった。温泉の熱い湯と部屋の冷たい空気の間にある数秒の「ラグ」。その空白に、私たちは社会的な役割を置き忘れてきた。自由とは温度のことだ。熱と冷の間で揺れるときだけ、人は本当の自分に気づける。硫黄の香りと笑い声が混ざり合う空間で、正解なんてどうでもいいと思っていた。隣にいる奴が同じように笑っていれば、それで十分だった。

早朝の冷たい空気の中で、ふわりと漂ってきた梅の花の香りが、まだ心地よかった。

  • 別府公園まで足を伸ばして、2月だけの淡い梅の花に囲まれて歩いてみるのがおすすめ。
  • 3階の駄菓子やゲームコーナーで、あえて大人のプライドを捨てて全力で遊んでみてほしい。