駅のホームに降り立った瞬間、一月の冷たい風が鋭く首筋をなでた。十七度という数字は、暖かい部屋にいたときには心地よく聞こえるけれど、実際に外に出ると、薄手のジャケットを突き抜けて皮膚に直接触れてくる。湿ったアスファルトの匂いと、どこからか漂う排気ガスの混じった冬の空気が、ここが日常から切り離された場所であることを教えてくれた。友人の一人が、「誰が一番先に道を間違えるか賭けない?」と、わざとらしくニヤついた。私たちは、しわくちゃの地図を広げるような、不完全で曖昧な計画を抱えていた。誰かが自信満々にナビゲートし、誰かが軽口を叩いて笑い、誰かが絶妙に遅れて歩く。スーツケースの車輪が路面を叩く不規則なリズムが、期待というよりは、心地よい混乱に似ていた。正解に向かって最短距離で歩くよりも、わざと遠回りして迷子になることに価値があると感じるのは、きっとこのメンバーだからだ。私たちは、目的地という点ではなく、そこに至るまでの線を描く旅をしていた。
路地の隙間に落ちていた、甘くて苦い記憶。
歩いている途中で、ふと目に留まったパパイヤミルクの店。冷たい空気の中で飲む、濃厚で白い液体。結露したプラスチックカップのひんやりとした感触が手のひらに張り付き、指先から体温が奪われていく。口の中に広がる強烈な甘さのあとに、ほんの少しだけ、パパイヤ特有の青い苦味が追いかけてくる。その絶妙なバランスが、なんだか今の私たちの関係に似ている気がした。「こっちで合ってるよな?」という根拠のない確信と、それに乗っかる心地よい諦め。結果、どうなったと思う。目的地まであと数分というところで、一番自信満々だったやつが真逆の方向に曲がった。私たちはそれを全力でいじり倒しながら、そのまま名もなき路地に入り込んだ。そこで見つけたのは、冬の淡い陽光に照らされた、時間が止まったかのような静かな住宅街。色褪せた壁の家々と、軒先に干された洗濯物が風に揺れている。冷たい風に乗って、温かい肉圓の甘いタレの香りがふわりと漂ってきた。予定を外れた瞬間にだけ出会える景色がある。それは、指先で丁寧に折り目を伸ばすように、時間をかけてゆっくりと味わいたい瞬間だった。
階段の先に待っていた、不便という名の贅沢。
心旅地図ユースホステルに到着し、二階へ上がる階段を登る。一段登るごとに外の喧騒が遠のき、代わりに誰かの弾んだ笑い声や、客用キッチンから漂う香ばしいコーヒーとトーストの香りが濃くなっていく。部屋に入った瞬間、私たちは互いにどこのベッドを確保するかで、まるで子供のように小競り合いを始めた。私が割り当てられたのは「ギリシャ」をテーマにした部屋。白を基調とした明るい客室が、窓から差し込む冬の光を反射し、どこか遠い異国の記憶を呼び起こさせる。けれど、そこで私たちはある事実に気づいた。タオルがない。というか、アメニティがほぼゼロだ。「え、マジで?冗談でしょ?」という叫び声が部屋に響き、私たちは同時に爆笑した。結局、一人分しかない備品をどう分けるか、あるいは近所のコンビニで何を買うかという、究極にどうでもいい議論に一時間を費やすことになる。けれど、不思議とそれが心地よかった。完璧に整えられた高級ホテルの無機質なサービスよりも、心旅地図ユースホステルのような「不便さ」がある空間の方が、私たちの心の距離をぐっと縮めてくれる気がする。夜、冷えた体を預けたベッドのシーツは、想像していたよりもずっと柔らかく、吸い付くように肌に馴染んだ。天井をぼんやりと眺めていると、壁越しに遠くで誰かが笑い合う声が聞こえる。その音が、ちょうどいい音量で空間の空白を埋めていた。一人でいれば寂しさを感じたかもしれない静寂が、友人たちの気配があることで、贅沢な余白に変わる。裸足で踏んだタイルのひんやりとした温度が、高ぶった感情を心地よく冷ましてくれた。
ぬるくなったパパイヤミルクの味が、まだ舌の端に残っている。
- 一月の八卦山大佛の灯籠は、夜の冷気に照らされて特に鮮やか。暖かい飲み物を。
- 心旅地図ユースホステルに泊まるなら、お気に入りのタオルを一枚忍ばせておくのが正解だ。