冷えたアイスティーのグラスに大粒の結露が溜まり、お気に入りのデニムスカートに小さな濃い円を描いている。そんな、ちょっとした不便ささえも愛おしく感じられる、陽炎が揺れる七月の午後だった。
道後hakuroで私たちが試した「大人の贅沢な遊び」4選
レコード選びという名の心理戦
フロントで借りたアナログ盤を部屋のプレーヤーに載せるまでの、あの独特な緊張感。指先に伝わる盤のずっしりとした重みと、微かな古紙の匂いに期待を膨らませたけれど、結果的に選んだのは誰も聴いたことがない前衛的なジャズだった。針が溝を滑る不規則なノイズが部屋に充満し、「これ、本当に音楽なの?」と顔を見合わせながら十分間ほど天井を見つめ合うことに。けれど、その気まずい沈黙こそが、都会では味わえない一番贅沢な時間だったのかもしれない。【結果:予想外の静寂に包まれる】
浴衣での迷宮入り散歩
道後温泉本館まで徒歩3分というはずなのに、誰かが地図を読み間違えたせいで、私たちは知らない路地を三回ほど往復した。足元の下駄が熱いアスファルトを叩く乾いた音と、帯で締め付けられた腰のもどかしさ。不意に通り雨が降り出し、浴衣の裾がしっとりと重くなる感覚に、私たちは互いのずぶ濡れの姿を見て同時に吹き出した。「もう、どこへ行ってもいいよね」と笑い合ったとき、目的地に着くことよりも、迷うこと自体の快感に気づいた。【結果:観光ルート完全崩壊の成功】
「彩り朝食」の盛り付け選手権
ネストラウンジの大きな窓から差し込む黄金色の朝日に照らされて、ビュッフェのフルーツやサラダが宝石みたいに輝いている。誰が一番「映える」皿を作れるか競い合ったけれど、結果は惨敗。欲張って盛りすぎたせいで、私の皿はもはや色彩の洪水状態で、食べる前に崩落しそうになっていた。それでも、焼きたてパンの香ばしい匂いと、挽きたてコーヒーの深い苦味が、眠い頭にゆっくりと浸透していく感覚は、何物にも代えがたい快感だった。【結果:視覚的な大失敗と味覚の完全勝利】
ネストラウンジでの「仕事ごっこ」
高い天井に露出した配管が、まるで建物の血管みたいに見えるインダストリアルな空間。ハイカウンターのひんやりとした感触にPCを広げ、「ここなら集中できる」と意気込んだけれど、結果的にやったことは、隣の友人が食べているスイーツへの執拗なツッコミと、次の目的地についての果てしない議論だけ。集中力という名の表面張力が、心地よい空間の緩さに耐えきれず、あっさりと弾けてしまった瞬間だった。【結果:生産性ゼロの心地よい敗北】
旅の感情スコアボード
一番のMVPは、間違いなく部屋のレコードプレーヤーだった。音楽を聴くことよりも、「何を聴くか」で揉める時間の方がずっと人間味に溢れていたから。逆に、仕事への意欲は完全にゼロ点。でも、それでいい。シモンズ製ベッドの深い沈み込みに身を任せ、エアコンの冷気が肌を撫でる感覚に浸っているとき、私たちは「何もしないこと」の正解に辿り着いた気がする。道後hakuroという場所は、効率的に観光するための拠点ではなく、心地よく人生から脱線するための装置だったのだと思う。
遠くで花火の音が低く響き、部屋の明かりを消したとき、私たちの輪郭が夜に溶けていった。
- フロントで一番「正体不明」なレコードを選んで、あえての沈黙を楽しんでみてほしい
- 朝6時の静かな時間に、浴衣姿で本館まで歩き、街が目覚める音を聴くのがおすすめ