← 戻る ザ・リッツ・カールトン福岡

2時のグラスが鳴る音だけが、正解だった

ロビーの磨き上げられた大理石に触れた靴底が、心地よく冷たい。高い天井に吸い込まれていく私たちの騒がしい笑い声。誰が一番この空間に馴染めていないか、入り口で賭けたけれど、結果的に全員が場違いな顔をしていた。けれど、その居心地の悪さが、最高のスパイスだった。



朝食の卵料理が、驚くほど滑らかだった。舌の上で形を失う、ベルベットのような質感。添えられた地元の食材が持つ、少しだけ尖った塩気が意識を覚醒させる。コーヒーの白い湯気が眼鏡を曇らせ、隣の友人が「貴族の朝食だな」と鼻で笑った。その温度感が、ちょうどよかった。


「見てよ、その歩き方。完全にザ・リッツ・カールトン福岡に酔ってるよね」と誰かが言い出した。私たちは互いの、無理に背筋を伸ばした不自然な立ち姿を弄り合う。洗練された空間に身を置くと、普段隠している「ダサさ」が、かえって鮮明に浮き上がってくる。それが可笑しくてたまらなかった。


真っ白なバスローブに身を包んだとき、私たちは忽然、秘密結社のメンバーになった気分だった。ふかふかの生地が肌にまとわりつき、歩くたびに足音が消えていく。誰が一番「リゾート感」を出せるか競い合い、結局、全員がパジャマのような格好でベッドに転がった。


10月の夜風が、窓の外で静かに鳴っている。天神の夜景が、宝石箱をひっくり返したみたいに散らばっていた。大濠公園の方へ視線を移すと、街の呼吸がゆっくりに変わっていく。あんなに騒いでいたはずなのに、ふと訪れた静寂が、心地よい重さを持って降りてきた。


デラックススイートの50平米という贅沢な空間。ベッドから窓まで、裸足で数歩。タイルのひんやりした感触が足裏に伝わり、そこから雲のようなカーペットへ移行する。その境界線で、誰かが小さくあくびをした。部屋の隅で反響する笑い声が、この空間を私たちの色に染めていく。


最新のコーヒーマシンを前にして、私たちは途方に暮れた。ボタン一つで完璧な一杯が出るはずなのに、操作を間違えて、お湯だけが虚しく注がれた。その情けない光景に、全員で大爆笑した。完璧な設備よりも、その小さな失敗の方が、ずっと記憶に深く刻まれる。


シーツの張り詰めた冷たさに潜り込む。外はもう秋の深まりを感じさせる温度だった。明日にはまた、それぞれの日常という名の不自由な服を着なければならない。けれど、この部屋で共有した不格好な時間だけは、消えない周波数のように心に残る気がした。

窓の外、遠くで点滅する赤い航空障害灯が、ゆっくりと瞬いている。

  • ラウンジでコーヒーを飲みながら、あえて一番ダサい格好でくつろいでみて。そのギャップが最高に贅沢。
  • 部屋のバスローブを着て、夜の街を眺めながらくだらない議論を戦わせるのが正解。