← 戻る THE BLOSSOM HAKATA Premier

左肩だけが濡れた傘の下で笑っていた

左肩だけが濡れた傘の下で笑っていた

「絶対、誰かが道に迷う方に賭けていい」

「ねえ、今の曲がり角、右じゃなかった?」「いや、グーグルマップは左って言ってるし!っていうか、あんたの地図の読み方、本当にありえないんだけど」
雨に濡れたアスファルトの、あのむせ返るような土と埃の匂いが鼻をつく。誰かが笑いながら、わざと水溜まりを避けて歩く私の靴を軽く蹴った。6月の博多は、空から絶えずしっとりとした重みが降りてくる。傘を差していても、どこか一箇所だけ必ず濡れる。私の場合は左肩だった。
「結果的に見てよ、この雨。もう、全員ずぶ濡れじゃん!」
「いいじゃん、冒険っぽくて。ねえ、見て!あそこの紫陽花、色が濃くて綺麗。写真撮ってよ」
「今はそれどころじゃないし!早くTHE BLOSSOM HAKATA Premierに着かないと、私の足が冷え切って消えちゃうよ!」
私たちは互いに文句を言い合いながら、それでも無意識に歩幅を合わせていた。誰一人として正解を持っていないけれど、その不完全さが心地よかった。結局、駅からのわずか7分という距離が、私たちには果てしない迷路のように感じられたけれど、それがまたおかしくて、誰かが吹き出した拍子に雨粒が口に入った。

織り目の隙間に、呼吸を置く場所

ホテルのロビーに足を踏み入れた瞬間、外の湿った冷気とは対照的な、乾いた温もりが肌を優しく包み込んだ。濡れた靴が厚い絨毯に深く沈み込む、あのわずかに重い感覚。耳に届くのは、控えめなBGMと、遠くで誰かが交わす静かな笑い声。ここは街の喧騒を完全に遮断するのではなく、心地よいフィルターで濾過し、必要な静寂だけを残したような和モダンな空間だ。

案内されたHAKATA FLOORの客室は、想像していたよりもずっと、深く呼吸ができる広さだった。54平方メートルという数字上の面積よりも、ベッドから窓まで歩く時の、あのゆったりとした歩数に言いようのない安心感を覚える。指先で触れたカーテンや壁の装飾には、博多織の緻密なモチーフが組み込まれていた。その織り目は、一本一本の糸が互いに譲り合い、支え合って一つの美しい模様を作っている。なんだか、私たちの今の関係みたいだと思った。バラバラな方向を向いているけれど、どこかで複雑に絡まり合って、簡単には解けない。そんな、心地よい拘束感。

140センチのベッドに、誰が先に飛び込むかで小さな争いが起きた。シーツのひんやりとした感触と、その直後にやってくる体温の温かさ。窓の外ではまだ雨が降り続いているけれど、ガラス一枚隔てたこちらの世界では、時間はとてもゆっくりと、凪いだ海のように流れている。もしかしたら、旅の本当の目的は、目的地に行くことではなく、こういう「何もしなくていい時間」を誰かと共有することなのかもしれない。濡れた服を脱ぎ捨てて、もこもこのルームウェアに身を包んだとき、ようやく心の中の緊張がほどけ、深い溜息が漏れた。その溜息さえも、この部屋の静寂に優しく溶け込んでいく。

午前二時のラウンジ、氷が溶ける音

「……っていうか、結局私たち、何しにここに来たんだっけ」
14階のHAKATA LOUNGE。照明が落とされ、雨に滲んだ街の灯りが、まるで深い海に沈んだ宝石のように揺れている時間。グラスの中で氷がカランと鳴り、会話の間に小さな空白が生まれる。昼間の騒がしさが嘘のように、声のトーンが自然と落ちていた。
「さあね。でも、こうやってぼーっとしてる時間が一番贅沢かも」
「ふーん。あんたにしては、珍しくいいこと言うじゃん」
「うるさいな。でも、本当はちょっと怖かったんだよね。大人になってから、こうやって気を使わずに一緒に旅ができる人が、まだいるのかなって」
「……まあ、私たちは相当に面倒くさい連中だから、お互い以外に選択肢ないんじゃない?」
冗談めかして言ったけれど、その言葉の端には、確かな体温が宿っていた。誰かが誰かを完璧に理解することなんて無理だけれど、隣にいて、同じ雨の音を聞いている。それだけで十分だという気がした。私たちは、正解を求める旅ではなく、ただ一緒に迷子になる旅をしていたのだ。冷たい飲み物が喉を通るたび、心の中の凝り固まった何かが、ゆっくりと解けていくのがわかった。明日になればまた、いつものように口喧嘩を始めて、お互いの欠点を突き合い合うだろう。けれど、今はただ、この静かな夜の端っこに、身を任せていたいと思った。

雨上がりの窓辺に、淡い光が静かに差し込み始めた。

  • 博多駅からの徒歩7分、あえて裏道に入って雨に濡れた紫陽花を探しながら歩いてみてほしい。
  • 14階のラウンジでは、あえて何も話さず、街の灯りが滲む様子を眺める時間を大切に。