← 戻る The BREAKFAST HOTEL 福岡天神

コーヒーの温度と、まだ眠そうなあなたの声

コーヒーの温度と、まだ眠そうなあなたの声

「ローストビーフ、盛り放題らしいよ」

「ねえ、本当に朝ごはんのために起きる?」
まだ夢の続きに浸っているような声で、あなたが小さく呟く。
「ローストビーフ、盛り放題らしいよ」
私の言葉に、あなたはふっと口角を上げ、重い布団からゆっくりと這い出した。11月の福岡の朝は、まだ肌を刺すような冷たさが残っている。カーテンの隙間から差し込む白く透き通った光が、部屋の温度と外の空気の境界線を鮮やかに描き出していた。意識が半分だけ眠りに落ちている状態で、隣にあるあなたの体温だけが、確かな重さと安心感を持ってそこに存在していた。

空白を埋める、色彩と温度の記憶

裸足で踏み出したフローリングの、ひんやりとした感触が心地よい。ゆったりダブルの部屋に漂う、清潔で静かな空気は、誰にも邪魔されないふたりだけの聖域のようだった。The BREAKFAST HOTEL福岡天神のレストランに降りると、そこには宝石のように色鮮やかな食材が並んでいた。チョップドサラダのトッピングを一つひとつ選ぶ時間は、まるでこれからふたりでどんな時間を過ごそうかと相談しているみたいで、胸が小さく弾む。何を入れ、何を入れないか。正解なんてないけれど、あなたの「これが好き」という言葉に合わせて、私の皿にも同じ色を添えてみる。土の下で静かに圧力を蓄えている種が、ある日ふいに殻を破るように、私たちの関係も、こういう些細な選択の積み重ねで、少しずつ形を変えていくのかもしれない。

国産牛のローストビーフを贅沢に盛り付けたとき、その芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。口に運べば、肉の濃厚な旨味がじゅわりと広がり、冷えていた身体の芯からゆっくりと熱が灯っていくのがわかった。そんなとき、私は少しだけ背伸びをして「大人の旅」を演出したかったらしい。けれど、サラダのトッピングに集中しすぎたせいで、不意にチェリートマトが一つ、私の靴の上に転がっていった。あなたに小さく笑われ、私もなんだか恥ずかしくなって、でもそれが心地よくて、私たちはしばらくの間、言葉もなく笑い合った。

食事を終えて外に出ると、天神南駅までの道すがら、秋の澄んだ空気が頬を撫でた。友泉亭公園へ向かう道中で見た紅葉は、燃えるような赤ではなく、どこか静かに、深く色づいていた。その色彩を眺めながら、私は思った。完璧に理解し合えることよりも、こうして「わからないけれど、一緒にいたい」と感じる空白があることの方が、ずっと贅沢なことなのだと。地表に突き抜けた最初の緑が、不器用ながらも光を求めて伸びていくように、私たちもまた、不完全なままで、この街の景色に溶け込んでいった。あなたは私の手を、少しだけ強く握った。その手のひらの温度が、今の私にとって、世界で一番正しい答えであるという気がした。ここでは、ありのままの自分でいていい。急がなくていい。ただ、隣にいるあなたの呼吸を感じていれば、それで十分だった。

窓の外で、冬を待つ街が静かに、深く呼吸をしていた。

  • 朝食のカスタマイズをしながら、お互いの「意外な好み」をゆっくり見つけ合ってみて。
  • 友泉亭公園の紅葉を眺めたあと、あえて目的地を決めずに天神の路地を散歩してみない?