← 戻る 下呂温泉 ホテルくさかべ アルメリア

遠くで鳴った花火が、耳の奥に残っていた

遠くで鳴った花火が、耳の奥に残っていた

シャトルバスのドアがスライドして開いた瞬間、肺の奥まで届くような濃い湿気が押し寄せてきた。エアコンの冷気に慣れていた肌が、一瞬で熱帯のような熱を帯びた空気に包まれる。それが、下呂温泉 ホテルくさかべ アルメリアでの濃密な時間の始まりだった。

予想外の心地よさに揺れた、5つの記憶

心臓が跳ねた、急勾配の洗礼
駅からの送迎バスに揺られて数分。ふと窓の外を見ると、ホテルへと続く道が驚くほど急な坂になっていて、隣にいた友人が「これ、本当に登れるの?」と不安げに呟いた。けれど、頂上に辿り着いて眼下に広がる景色を見たとき、私たちは自分たちが日常から切り離された高い場所に連れてこられたことに気づき、誰からともなく笑い合った。暑さでぼーっとしていた意識が、心地よい緊張感で覚醒した瞬間だった。

重力を裏切る、斜め移動のエレベーター
このホテルにある斜め移動のエレベーターに乗ったとき、私たちは全員、言葉を失った。垂直でも水平でもなく、空間を斜めに切り裂いて進む感覚は、まるで古いSF映画の装置に乗り込んだみたいで、心地よい違和感に包まれる。到着までが予想よりゆっくりだったため、狭い空間に気まずい沈黙が流れたとき、誰かが「もしかして、このままどこか別の次元に行くんじゃないか」と冗談を言い、一斉に突っ込みを入れたのが最高の思い出だ。

化粧水に溶け込むような、至福の湯浴み
8階の「花見月の湯」に身を沈めたとき、指先で触れたお湯の質感が、あまりに滑らかで驚いた。それはもはやお湯というより、高級な美容液の中にそのまま浸かっているような、不思議なトロみがある。総檜造りの清々しい香りが鼻をくすぐり、目の前に広がる下呂の街並みが、白い湯気で淡くぼやけて見えた。「肌がつるつるになりすぎて、隣の人と擦れたら滑り落ちちゃうね」なんてくだらない会話をしながら、体の芯まで熱が染み込んでいくのを静かに待っていた。

ジャズの調べと、飛騨牛を巡る静かなる闘争
夕食に選んだイタリアンレストランは、大人の社交場のような落ち着いた雰囲気で、低く心地よいジャズが流れていた。けれど、私たちのテーブルだけは、誰が一番多くお皿を空にするかという、小学生のような賭けに盛り上がっていた。一皿ずつ丁寧に運ばれてくる料理の芸術的な美しさと、私たちのガツガツした食べ方のギャップがひどかったと思う。でも、飛騨牛の濃厚な脂が口いっぱいに広がったとき、私たちは一時的に休戦し、ただただ「美味しい」という共通認識に深く浸っていた。

浴衣の締め付けと、夜空に咲いた大輪の花
慣れない浴衣を纏い、下呂の街へ繰り出した。襟元が少しだけ締め付けられて呼吸が浅くなるけれど、その窮屈さがかえって「旅をしている」という実感を強くさせてくれた。夜空に打ち上がった花火の音が、山の地形に反響して、耳の奥に重く、深く響き渡る。隣で友人が「やっぱり計画なしに歩くのが正解だったね」と、少しだけ寂しそうに、でも幸せそうに笑っていた。夜風の冷たさと花火の熱量が混ざり合ったあの感覚は、今でも肌が鮮明に覚えている。

点と線が結ばれ、ひとつの色になる

濃い藍色のインクが、濡れた和紙にゆっくりと滲んでいくような感覚だった。アジアンリゾートタイプの客室で過ごした異国情緒あふれる時間も、斜めのエレベーターの奇妙な浮遊感も、すべてが混ざり合い、境界線が消えていった。一つひとつの出来事は最初は独立した点だったけれど、時間が経つにつれて、それらは互いに溶け合い、一つの大きな「夏」という色に変わっていった。完璧なスケジュールなんて必要なかった。むしろ、少しだけ不便で、予想外の隙間があったからこそ、この旅は私たちの記憶に深く、温かく定着したのだと思う。

夜の静寂の中に、遠くで鳴り止まない祭りの囃子が溶けていた。

  • 下呂駅からホテルまでは急坂なので、迷わず無料送迎バスを利用することをお勧めします。
  • 8階の展望露天風呂では、ぜひ湯上がりに冷たい牛乳を飲んで、夜景を眺めてみてください。