← 戻る 望川館

濡れたサンダルがスペイン製のタイルに吸い付く音

濡れたサンダルがスペイン製のタイルに吸い付く音

5年後の私たちへ。浴衣の裾が雨に濡れて、歩くたびに少しだけ重くなったあの感覚や、鏡に映ったお互いのひどい寝癖を見て、腹を抱えて笑い転げたあの時間を、まだ覚えているだろうか。湿った空気と、とりとめもない冗談だけが世界のすべてだった、あの贅沢な停滞を。

5年後の指先が、静かに思い出す景色

スペイン製タイルの冷徹な白さと、反響する笑い声:ロビーに広がる、先々代が海を越えて運んだというタイルの床。裸足で触れた瞬間に芯まで冷える硬い質感と、そこに反響する私たちの高い笑い声。「絶対私だって!」と誰が一番にチェックインできるか賭けて駆け出した、あの滑稽な光景が、タイルの白さと一緒に記憶の底に焼き付いている。

1,100坪の庭園に滲む、雨の紫陽花と深い緑の香り:視界を埋め尽くす広大な日本庭園。雨に濡れて毒々しいほど鮮やかな青と紫のグラデーションが、霧に包まれた山並みにゆっくりと溶けていく。土の匂いと濡れた葉の香りが混じり合い、「ここ、もしかして異世界に迷い込んだんじゃない?」と誰かが呟いた、あの重たく心地よい静寂。雨粒が葉の上で弾ける音が、驚くほど近くに聞こえ、世界が私たちだけのために静まり返った気がした。

下呂温泉望川館 / BOSENKAN の湯に溶ける、絹のような滑らかさ:pH8.9というアルカリ性の贅沢。肌に触れた瞬間、まるで薄い絹の膜をまとったように滑り落ちるお湯の感触。露天風呂付きのお部屋で、飛騨川のせせらぎをBGMに、「もう脱皮したんじゃないか」と大げさに騒いだあの時間。湯気に包まれて視界が白く霞む中で、日常で強張っていた心までゆっくりと解きほぐされていった。

子供風呂の蛙とアヒルに、不意に心を奪われた瞬間:大人が入るにはあまりに愛らしい、子供向けの設備。それをわざわざ覗き込み、「誰が一番子供っぽいか」で言い争った、あの不格好な好奇心。「だって、このアヒルさんの顔、〇〇に似てるもん」なんて言い合いながら、結局一番はしゃいでいたのは私たちだった。そんな隙のある時間が、旅というパズルを完成させる最後のピースだったのだと思う。

5年後にこの記憶の封印を解いたとき

きっと、あの夜に堪能した飛騨牛の正確な味や、地酒の銘柄なんてものは、記憶の隅で淡く薄れているだろう。けれど、雨の日の湿り気や、ロビーのタイルの冷たさは、身体が深く覚えているはずだ。ふとした瞬間に指先に滑らかなお湯の感覚が蘇り、それがトリガーとなって、誰が先にシャワーを浴びるかというくだらない言い争いや、地図を持たずに迷い込んだ路地裏の記憶まで、濁流のように一気に引きずり出される。完璧な計画など一つもなかったけれど、その「不完全さ」こそが、私たちにとって一番心地よい共鳴だった。思い出とは、綺麗な写真よりも、こうした不格好で、けれど鮮やかな感覚の集積でできているものなのだ。

玄関先に並んだ、雨の色を深く吸い込んだ傘たち。

  • 下呂駅から無料シャトルバスが出る時間を確認し、ギリギリまで温泉街の路地を彷徨うのが正解。
  • 色浴衣のプランがあるなら、迷わず一番派手な色を選び、お互いのセンスを笑い合うのがおすすめ。