← 戻る センチュリーマリーナ函館

パジャマの裾をひきずって歩く、静かな廊下

パジャマの裾をひきずって歩く、静かな廊下

「ここは大きな船の中なの?」と瞳を輝かせた瞬間

函館駅からの道を歩くとき、子供たちの小さな靴が冷たいアスファルトを叩く音が、心地よいリズムとなって冬の街に響いていた。三月の空気はまだ鋭く、吸い込むたびに鼻の奥がツンとする。厚手のコートの襟を立て、冷え切った小さな手をぎゅっと握りしめてセンチュリーマリーナ函館のロビーに足を踏み入れた瞬間、外の刺すような冷気が嘘のように消え、陽だまりのような温かい空気がふわりと肌を包み込んだ。チェックインの手続きを待つ間、上の子が弾んだ声を上げて天井を指差した。「見て!ここ、大きな船の中みたい!」見上げると、そこには船の底をひっくり返したような、緩やかで優美な曲線を描くデザインが広がっていた。大人はそれを「モダンな建築美」と呼ぶけれど、子供の純粋な目には、そこは巨大なクジラの腹の中か、あるいはこれから未知の海へ漕ぎ出す秘密の豪華客船の船室に見えたらしい。彼らにとって、ホテルの入り口は単なる受付ではなく、日常を脱ぎ捨てて冒険へと旅立つための「乗船口」だったのだ。足元の厚い絨毯が、歩くたびに足首を柔らかく捉える。その心地よい沈み込みに、子供たちはすぐに心躍らせ、小さな足で駆け出した。大人の世界では「静かに」というルールが優先されるけれど、ここではその賑やかささえも、旅の始まりを祝う心地よいBGMのように感じられた。

お皿の上に築き上げた、小さな食の帝国

翌朝、二階のユウユウテラスへ向かう。そこは、まるで異国の港町のマルシェに迷い込んだような、色彩豊かな光に満ちた空間だった。子供たちは、目の前に広がる北海道の豊かな食材に目を輝かせ、好奇心の赴くままにプレートを手に取った。特に、玄米の香ばしい匂いと、露を帯びたように鮮やかな緑色の野菜たちが並ぶ様子は、彼らにとっての宝探しのようなものだった。ある子は、見たこともない色の根菜を慎重に選び、またある子は、宝石のように色づいたフルーツをプレートに高く積み上げていた。それはまるで、凍った土の下でじっと春を待っていた種が、一気に芽吹いて茎を伸ばしていくような、生命力に溢れた光景だった。好奇心という根が、見たことのない味や色を求めて、どんどん広がっていく。その最中、次男がプレートの上に、盛り付けた料理を限界まで積み上げ、今にも崩れそうな「食のタワー」を完成させた。「見て!僕がこの船の船長だ!」と誇らしげに宣言した瞬間、プレートがわずかに傾き、小さなニョッキが一つ、ぽろりとテーブルの上に転がった。その場にいた家族全員が、ふっと小さく笑い合った。完璧な盛り付けなんてどうでもいい。ただ、目の前の美味しいものを、誰よりもたくさん発見したいという純粋な欲求。その乱雑で賑やかな時間が、旅の記憶に一番深く刻まれるのだという気がした。口の中に広がる北海道野菜の凝縮された甘みと、玄米の優しい食感が、冷えた体にゆっくりと染み渡っていく。子供たちの笑い声と料理の香りが混ざり合い、食卓は小さな幸福の帝国へと変わっていた。

子供たちの寝息が、静寂の輪郭を書き換えるとき

嵐のような一日が終わり、子供たちが深い眠りに落ちた。パジャマの裾をひきずってベッドに潜り込み、数分後には規則正しい寝息だけが部屋に満ちている。ようやく訪れた、大人だけの贅沢な時間。ロイヤルスイートのビューバスに身を沈めると、溜まったお湯の熱が、心地よく肩までを浸し、一日の緊張をゆっくりと溶かしていった。視線の先には、夜の闇に溶け込む函館の街並みと、どっしりと構える函館山のシルエットが静かに横たわっている。昼間の喧騒が嘘のように、世界から音が消えていく。お湯に浸かりながら、今日一日、子供たちの後を追いかけていた自分の足の疲れを、丁寧に解きほぐしていく。孤独とは、寂しいことではなく、自分という個体が再び輪郭を取り戻すための、必要な空白なのだと感じた。バスルームのタイルのひんやりとした感触と、お湯の熱さ。その鮮やかなコントラストが、今自分がここにいるという実感を鮮明にする。ベッドに戻り、選び抜かれたリネンの滑らかな質感が肌に触れたとき、深い安堵感が押し寄せた。子供たちが作り出した「乱雑さ」という名の風景があったからこそ、この静寂は、ただの空虚ではなく、最高のご褒美になる。心の中にある緊張の糸が、ゆっくりと緩んでいく。それは、冬の雪が溶けて、地面から小さな芽が顔を出す直前の、静かな期待感に似ていた。明日もまた、賑やかで不完全な一日が始まる。けれど今は、この深い静寂に身を任せていたい。

窓の外では、北天の星たちが静かに瞬いていた。

  • 子供と一緒に、ロビーの天井を「船の底」に見立てて、どこへ航海するか想像して話し合ってみてください。
  • ユウユウテラスの朝食で、お子さんに「一番不思議な色の食べ物」を探してもらう宝探しゲームを提案してみてください。