← 戻る プレミアホテル 中島公園 札幌

小さな指先が触れた、緑の匂い

外気は13度。肌に触れる空気はまだ少し鋭くて、けれどどこか春の予感に満ちて柔らかい。プレミアホテル中島公園札幌のロビーに足を踏み入れたとき、ふわりと鼻腔をくすぐったのは、誰かが淹れたばかりのコーヒーの香ばしい匂いと、外から連れてきた雨上がりの土の湿った香りだった。正直に言うと、私は「完璧な家族旅行」なんて信じていない。子供を連れた旅は、いつだって計画という名の薄い氷の上を歩くようなものだから。けれど、静謐な空気が流れる廊下を歩いているうちに、その不完全さこそが、この旅の本当の輪郭になるのかもしれないと感じた。

コンクリートの隙間を押し広げて、強引に居場所を作る新緑の力。5月の札幌は、そんな静かな爆発に満ちている。私たちは、その緑の波に飲み込まれるようにして、この場所に身を置いた。プレミアデラックスツインの部屋に入ったとき、子供たちは「プレミアって、恐竜の名前なの?」と不思議そうに聞いてきた。私はただ笑って、彼らの小さな手を握りしめた。正解なんてなくていい。ただ、この指先の温度を、記憶の底に深く刻んでおきたいと思った。

家族で分かち合った、五つの断片

ラウンジの白いカップ:指先に伝わる陶器の心地よい熱と、挽きたてのコーヒーが放つ少し焦げたような香ばしい匂い。末っ子が「泥水みたい」と笑ったけれど、その隣で夫がゆっくりと赤ワインを口に含み、ふぅと深い溜息をついた。大人の時間と子供の時間が、一つのテーブルの上で心地よく混ざり合う贅沢なひととき。一番最初に「いい匂い」と気づいたのは、好奇心旺盛な次男だった。

窓の外のエゾリス:ラウンジの大きな窓越しに見えた、小さく震える鼻先と、つやつやとした茶色の毛並み。リスが足を止めた瞬間、家族全員が同時に息を止めた。世界から音が消え、ただ生き物の鼓動だけが聞こえるような、わずか三秒間の濃密な静寂。その静けさは、どんな豪華な設備よりも贅沢に感じられた。最初に「あそこに誰かいる」と指をさしたのは、長女だった。

裸足で踏んだカーペットの厚み:足の指先が深く沈み込む、柔らかくて重い感触。子供たちが走り回っても、その音は厚い生地に吸い込まれて、遠くの方で小さく響く。ベッドからバスルームまで、不器用な歩幅で数えて六歩。その距離感さえも、この部屋の一部として愛おしく思えた。この心地よさに最初に気づき、そのまま転がったのは、私だった。

中島公園の藤の花:重たげに垂れ下がる紫色のカーテンのような花房。鼻をくすぐる、湿り気を帯びた甘い香り。13度の風が頬を撫でると、冬の間に溜め込んでいた心の澱が、ゆっくりと溶け出していくような気がした。自然が街の境界線を曖昧にしていく感覚。その色の濃さに一番に目を奪われたのは、夫だった。

添い寝用の大きな枕:洗いたてのリネンの清潔な匂いと、心地よい重み。騒がしかった一日が終わり、小さな体が私の腕の中で規則正しい呼吸を始めたとき、部屋に満ちたのは濃密な静寂だった。孤独は寂しさではなく、自分を取り戻すための臓器のようなもの。でも、この重みがあるときは、その孤独さえも温かい。この安心感に一番先に包み込まれたのは、深い眠りに落ちた子供たちだった。

窓の外に広がる夜景を背に、私たちは静かに、互いの体温を確かめ合った。

  • 午後4時頃、ラウンジ「セゾン」で黄金色の光が差し込む時間を過ごしてほしい。コーヒーの味が少しだけ優しくなる気がする。
  • 早朝の中島公園を、あえて目的もなく歩いてみて。新緑がコンクリートを押し広げる、静かな生命の音に気づけるはずだから。