← 戻る 京王プレリアホテル札幌

小さな指が、浴衣の裾をぎゅっと掴んでいた

小さな指が、浴衣の裾をぎゅっと掴んでいた

小さな視線が捉えた、白く輝く迷宮の入り口

JR札幌駅の北口を出た瞬間、7月の湿り気を帯びた重い空気が、じっとりと肌にまとわりつく。大人にとってはわずか3分の道のりだが、小さな足で歩く子供にとっては、一歩一歩が未知の領域へ踏み出す大冒険なのだろう。隣を歩く老二が、アスファルトの隙間に咲く名もなき小さな花に釘付けになり、何度も歩みを止める。「見て、お花が笑ってるよ」という呟きに、私はふと足を止めた。大人は効率という名の地図に従って目的地へ急ぐが、子供の視界は常に地面に近い、私たちが見落としてきた宝物で満ちている。京王プレリアホテル札幌の自動ドアが静かに開いた瞬間、外の喧騒がふっと遮断され、凛とした冷んやりとした空調の風が、火照った頬を優しく撫でた。ロビーに足を踏み入れた子供は、その空間の圧倒的な広さに気圧されたのか、一瞬だけ足を止めて口をぽかんと開けていた。彼らにとってここは単なる宿泊施設ではなく、見上げるほど高い天井と、どこまでも続く真っ白な壁に囲まれた、光り輝く巨大な迷路のように映ったのかもしれない。スーツケースのキャスターが床を転がる規則的なリズムが、静謐な空間に心地よく反響し、旅の始まりを告げるメトロノームのように響いていた。大人がチェックインの手続きに追われている間、子供たちは絨毯の深い柔らかさを確かめるように、裸足に近い感覚で床を丁寧に踏みしめていた。彼らの世界には、大人が執着する「効率」や「手続き」などという概念は存在しない。ただ目の前にある質感、温度、そして光の粒子だけが、彼らにとっての唯一の真実なのだ。

黄金色の誘惑と、湯気に溶ける笑い声

翌朝、レストランに降り立つと、そこは心地よい混乱に満ちた、もう一つの戦場だった。北海道の豊かな大地が育んだ食材が贅沢に並ぶブッフェコーナーは、子供たちにとって最高の宝探し会場となる。老二が「これ、何の色!?」と目を輝かせて指差したのは、宝石のように鮮やかな地元の夏野菜たち。特に、蒸し上がったばかりのコーンの甘く濃厚な香りが鼻をくすぐると、プレートの上にはあっという間に黄金色の山が築かれていく。プラスチックのプレートがカチャカチャと軽快に鳴る音、興奮して高くなる子供たちの声、そしてコーヒーマシンが低く唸る音。それらが複雑に混ざり合い、まるで朝の活気を奏でるオーケストラのように空間を満たしていた。ふと見ると、老大が慣れない手つきで地元の濃厚な乳製品を口に運んでおり、口の端に白いクリームがちょこんとついている。それを指摘して笑おうとしたが、至福の表情で目を細めるその顔を見て、私はそっと微笑み、そのままにしておくことにした。その後、家族で訪れた大浴場では、また別の発見が待っていた。熱いお湯に身を沈めた瞬間、凝り固まった体の芯まで温かさが染み渡り、旅の緊張がゆっくりと湯気に溶け出していく。子供たちは水しぶきを上げてはしゃぎ、周囲に申し訳なさを感じつつも、その天真爛漫な笑い声が浴室の壁に反響し、心地よいリバーブとなって耳に届く。浴衣に着替えた後、老二が私の裾をぎゅっと掴んで「もう一回、あのお風呂に行きたい」と小さく呟いた。その小さな手の体温が、どんな豪華な景色よりも確かな旅の記憶として、私の心に深く刻まれた。

深い青に抱かれて、自分を取り戻す静寂

子供たちが深い眠りに落ち、部屋に本当の意味での静寂が訪れる。コンフォートツインの部屋に備え付けられた窓際のベンチソファに深く腰を下ろすと、ようやく自分の静かな呼吸音が聞こえてくる。昼間の喧騒が嘘のように、今はただ、遠くでかすかに聞こえる街のざわめきだけが、心地よいBGMのように耳に届く。窓の外に目を向ければ、手稲の山並みが夜の帳にゆっくりと溶け込み、深い紺色から黒へと移ろう美しいグラデーションを描いていた。心地よい疲労感が、厚手の毛布のように全身を優しく包み込む。昼間、子供たちが無邪気に走り回っていたこの部屋は、今は完璧な吸音材となって、あらゆる雑音を吸収し、私たちを外界から保護してくれる聖域へと変わっていた。大人の旅の醍醐味とは、きっとこういう時間の積み重ねなのだろう。誰かの親としてではなく、誰かのパートナーとしてではなく、ただ一人の人間として静かに存在する時間。冷たい水で顔を洗い、指先に触れるタオルのふんわりとした柔らかな質感を確認する。明日もまた、予測不能な子供たちのリクエストに振り回され、スケジュールは簡単に崩れるだろう。けれど、この静かな部屋で、彼らが規則正しく、穏やかに呼吸している音を聞いていると、その混乱さえも愛おしい宝物のように感じられる。完璧な計画なんて、最初から必要なかったのかもしれない。不揃いな歩幅で、迷いながら、それでも手を繋いで一緒に歩いているという事実だけが、この旅における唯一の正解なのだ。心地よい眠気が、ゆっくりと意識の輪郭をぼかしていく。

窓の外で、札幌の夜が静かに、深く呼吸をしていた。

  • 朝食ブッフェでは、お子様と一緒に「北海道の美味しい色」を探す宝探しゲームを楽しんでみてください。
  • 大浴場から上がった後、家族全員で浴衣に身を包み、ロビーの静かな時間をゆっくりと味わうのがおすすめです。