← 戻る 函館国際ホテル

ロビーの絨毯に沈む、冷たい足先

冬の函館で、あえて家族とこの場所に集う理由とは?

JR函館駅からホテルへと向かうわずか8分間の道のり。12月の風は、まるで研ぎ澄まされた薄い刃物のように、容赦なく頬を撫でていく。子供たちの「寒い!」という高い叫び声が、真っ白な吐息と一緒に冬の冷たい空気に溶けては消える。足元の凍てついた地面を踏みしめるたび、靴底から伝わる硬く冷ややかな感触に身をすくませた。けれど、肩を寄せ合い、コート越しに伝わる家族の体温だけが、今の自分たちにとって唯一の確かな地図のように感じられた。そんなとき、函館国際ホテルの回転ドアを抜けた瞬間に押し寄せてくる、あの濃密で柔らかな温もりに、心から救われる。冷え切った足先が、ふかふかとしたロビーの絨毯に深く沈み込む心地よさ。外の世界の厳しさと、室内の静かな安らぎ。その境界線が、ちょうどいい温度で溶け合っている。ロビーに漂うかすかなアロマの香りと、スタッフの穏やかな微笑みが、張り詰めていた心をゆっくりと解きほぐしていく。ここでは、旅の疲れや子供たちの小さな不機嫌さえも、温かい空気の中にゆっくりと吸収されていく気がする。完璧なスケジュールをこなすことよりも、ただこの温もりに身を任せて、家族という一つの塊に戻ること。港町に抱かれたこの場所を拠点に選ぶ本当の意味は、そんな何気ない安らぎの中にあるのかもしれない。

子供たちの瞳に、一番鮮やかに焼き付いた景色は?

朝食バイキングのホールに足を踏み入れると、炊きたての米の甘い香りと、出汁の芳醇な香りが心地よく鼻をくすぐる。子供たちは、まるで未知の宝探しに挑む探検家のような高揚した顔で、色とりどりの料理が並ぶ空間を駆け抜けていく。特に、宝石のように光るオレンジ色の粒が贅沢に盛られた、いくらかけ放題のコーナー。小さなスプーンを握りしめ、慎重に、けれど欲張りに丼へと盛り付ける子供の横顔には、大人が忘れてしまったような純粋な真剣さが宿っていた。一粒、ぽろりとテーブルにこぼれたとき、上の子が「あ!もったいない!」と叫び、下の子がそれを慌てて指で拾おうとする。そんな、なんてことのない、けれど愛おしい混乱。口いっぱいに頬張ったいくらの、ぷちりと弾ける快い食感と、濃厚な潮の香りが口いっぱいに広がる。それは単なる豪華な食事というよりも、冬の函館という土地がくれた、小さくて贅沢な贈り物だった。そして、旅のハイライトとなったのが、最上階にある天然温泉展望大浴場だ。脱衣所のひんやりとした空気から、真っ白な湯気に包まれた空間へ足を踏み入れた瞬間、子供たちは「わあ、雲の中みたい!」と歓声を上げた。お湯に浸かった瞬間、強張っていた身体の芯からじわじわと熱が広がり、緊張がほどけていく。窓の外に広がる冬の街並みを眺めながら、お湯の中で足をバタバタさせる子供たちの笑い声が、湯気の中に心地よく響き渡る。肌を伝う水滴の感覚と、心地よい倦怠感。ここでは、大人の抱える小さな悩みなんて、立ち上る湯気と一緒に空へ消えていってしまう。ただ、今この瞬間の温かさと、家族の笑い声だけが、世界のすべてだった。

旅路の果てに、心に静かに灯り続けるものは何か。

夜、部屋の明かりを落として窓の外に目を向けると、ベイエリアのイルミネーションが深い夜の青に溶け込み、淡い光の粒子となって静かに揺れている。金森赤レンガ倉庫の方から流れてくる、冬の夜特有の張り詰めた静寂。ベッドに潜り込んだ子供たちが、心地よい疲れの中で、規則正しい呼吸を刻み始めている。シーツのパリッとした清潔な感触と、部屋の中に満ちた、家族だけの親密で濃密な空気。旅の途中で、誰かが道に迷い、誰かがお菓子をこぼし、誰かが急に泣き出した。そんな「予定通りにいかなかったこと」ばかりが、不思議と鮮明な色を持って記憶に刻まれている。正解を求める効率的な旅ではなく、不器用なままで一緒にいた時間。それは、人生という長い旅の中で、ふとした時に思い出し、凍えた心を温めてくれる小さな灯火のようなものだと思う。チェックアウトの朝、再び冷たい外気に触れたとき、私たちはきっと、この場所で得た温もりをお守りのように胸に抱いて帰路につくのだろう。思い出とは、綺麗に切り取られた写真ではなく、あの時感じた温度や、誰かの手のぬくもりのことなのだから。

重なり合う吐息と、誰かが笑った跡。冬の断片を、大切に持ち帰りたい。

  • 朝食のいくら丼は、子供と一緒に「誰が一番綺麗に盛れるか」を競ってみてほしい。その小さな真剣さが、最高の思い出になる。
  • 展望温泉で夜景を堪能したあと、部屋で温かい飲み物を飲みながら、今日一番面白かった出来事を話し合う時間を。