← 戻る 札幌ビューホテル 大通公園

パジャマのまま、窓の外の白を数えていた

パジャマのまま、窓の外の白を数えていた

窓ガラスに張り付いた、淡い春の吐息

指先でそっとなぞると、ひんやりとしたガラスの感触が肌に伝わり、心地よい緊張感が走る。窓の外には、札幌ビューホテル 大通公園から見渡す限りに、まだ白さが残る大通公園が静かに広がっていた。三月の空は、まるで丁寧に洗いたてのシーツのように淡いグレーに染まり、柔らかな光が雪の結晶を優しく包み込んでいる。隣では、老二が「ねえ、もう春なの?」と不思議そうに問いかけ、老大は「まだ雪があるから冬だよ」と、答えのない議論を熱心に始めている。その幼い横顔を眺めていると、旅の本当の目的とは、目的地に辿り着くことではなく、こうしたどうでもいい会話を分かち合う時間そのものだったのかもしれないと感じた。外の景色は、誰かが水で薄めた絵具で丁寧に塗り潰した水彩画のようにぼんやりとしていて、その曖昧さが、今の私たちにはちょうどいい。現実と夢の境界線がゆっくりと溶けていくような、そんな心地よい視界に身を委ねていた。

森の呼吸と、静寂をほどく笑い声

プレミアムラウンジ「コモレビ」に足を踏み入れた瞬間、耳に飛び込んできたのは、本物の森に迷い込んだかのような深い静寂と、どこからか忍び寄る微かな風の音だった。最新の音響設備が精緻に描き出す北海道の四季。そっと目を閉じれば、そこには広大な大地が深く、ゆっくりと呼吸しているのがわかる。都会の喧騒を忘れさせる完璧な静寂。けれど、その張り詰めた空気を鮮やかに破ったのは、老二が北海道のお菓子を口いっぱいに頬張り、「おいしー!」と小さく叫んだ無邪気な声だった。その瞬間、空間を支配していた厳かな空気がふわりと緩み、周囲にいた大人たちが、誰からともなく小さく微笑み合う。静寂というものは、それを壊す温かな音がいて初めて、本当の意味での安らぎを持つのかもしれない。音と音の隙間に、家族の体温がゆっくりと溶け込んでいく感覚。それは、耳で聴くというより、肌の奥で感じる音楽に近い、親密な時間だった。

ワッフル地の凹凸が、心を解きほぐす夜

部屋に戻り、用意されていたナイトウェアに袖を通す。指先で触れたワッフル生地の心地よい凹凸が、肌に触れるたびに小さな刺激をくれ、一日中張り詰めていた神経がゆっくりとほどけていく。子供たちは、そのパジャマを「お菓子の生地みたいだね」とはしゃぎながら、スタンダードツインルームのふかふかのベッドの上で転がっていた。限られた空間の中で、お互いの足がぶつかり合い、くすくすと笑い合う。厚手のシーツに潜り込んだとき、心地よい重みが体を包み込み、肩の力が完全に抜けていくのがわかった。バスルームまで歩く数歩の距離さえ、裸足で踏みしめるタイルのひんやりとした温度が心地よく、日常の喧騒が遠い国の出来事のように感じられる。この柔らかい包囲感こそが、私たちが旅に求めていた、共有された温もりだった。お互いの存在を肌で感じながら、私たちは深い眠りの海へとゆっくりと沈んでいった。

黄金色のオムレツと、大地を味わう朝

翌朝、レストラン「オードリー」で迎えた時間は、香ばしいバターの香りに満たされていた。目の前でシェフが実演するオムレツ。美瑛牛乳の純白さと卵の鮮やかな黄色が混ざり合い、ふわふわとした黄金色の塊が皿に盛り付けられる。一口運ぶと、空気を含んだ軽い食感の後に、濃厚なコクが舌の上に贅沢に広がった。老大は石窯で焼かれたラム肉のパリッとした表面の香ばしさに目を輝かせ、老二は北海道産トマトのケチャップを頬につけながら、夢中で食事に没頭している。大通公園の景色を眺めながら味わう朝食は、単なる食事ではなく、北海道という大地の生命力をそのまま体に取り込む儀式のようだった。子供たちの口の周りが汚れているのを見て、私はそれを拭う代わりに、ただその光景を記憶に深く刻もうとした。完璧なマナーよりも、この食欲に忠実な時間が、何よりも贅沢で、何よりも愛おしいと感じたからだ。

ロビーに漂う、冬の終わりと春の予感

チェックアウトに向かうロビー。そこには、冬の冷たい空気と、誰かが持ち込んだ春の気配が混ざり合った、独特の香りが漂っていた。フロント前アメニティバーに並ぶお茶の香ばしい匂いと、外から戻ってきたゲストのコートに染み付いた、冷たい雨の匂い。それは、季節が交代する瞬間の、少しだけ切なくて、けれど期待に満ちた香りだ。老二が私の手をぎゅっと握りしめ、「またここに来ようね」と小さく呟いた。その手の小さな熱が、コートの隙間からじわりと伝わってくる。私たちは、この場所で、ただ一緒に過ごすという、当たり前で、けれど大人の日常では最も難しいことを成し遂げた気がした。外に出ればまた凍えるような風が吹いているだろうけれど、心の中には、あのワッフル地のナイトウェアのような、柔らかい感触がずっと残っている。季節の変わり目の香りに包まれながら、私たちは新しい思い出を胸に、再び日常へと歩き出した。

パジャマのまま、窓の外の白さを数えていたあの時間が、一番の宝物だった。

  • 朝食のオムレツを注文したら、ぜひ子供と一緒に、その「ふわふわ感」を言葉にせずに見つめてみてください。
  • プレミアムラウンジ「コモレビ」では、あえて会話を止めて、北海道の自然音にだけ耳を澄ませる時間を5分だけ作ってみるのがおすすめです。