← 戻る 祝いの宿 登別グランドホテル

小さな足音が消えるほど、厚い絨毯の上で

外に一歩踏み出した瞬間、肺の奥まで凍りつくような鋭い冷気が身体を突き抜けた。視界は一面の白に塗り潰され、周囲の音さえも降り積もる雪に吸い込まれて消えていく。けれど、「祝いの宿 登別グランドホテル」の重厚な扉を開けたとき、そこには外の世界とは全く異なる、濃密で温かな時間が流れていた。ロビーに漂う静かなお香の香りと、どこからか聞こえてくる誰かの穏やかな笑い声。私たちは凍えた指先を互いに温め合いながら、この歴史ある空間が持つ、深い抱擁感に身を委ねた。

家族での旅は、いつだって予定通りにはいかない。上の子が浴衣の裾を不器用に踏んでよろけたり、下の子が温泉特有の香りに小さく顔をしかめたり。けれど、その不完全なリズムこそが、旅の本当の輪郭を形作る。静寂と喧騒が心地よく混ざり合うこの宿で、私たちは家族という小さな共同体の絆を、ゆっくりと確かめ合っていた。

家族の記憶に刻まれた5つの断片

硫黄の香り:地球の深淵から漏れ出したような、卵が少し焦げたような不思議な匂い。鼻腔をくすぐるその香りに、下の子が「ドラゴンの息みたいな匂いがする!」と歓声を上げ、それから家族全員で誰が一番「ドラゴンっぽい顔」ができるかという、とりとめもない競争が始まった。この匂いが鼻に残っている限り、私たちは登別の懐に抱かれているのだと実感できた。最初に気づいたのは、動物のように鋭い嗅覚を持つ下の子だった。

滴る肉汁のステーキ:ディナービュッフェで出会った、完璧な焼き色の肉。ナイフを滑らせた瞬間に溢れ出した濃い赤色のジュースと、舌の上でとろける脂の濃厚な甘み。お皿から立ち上る熱い湯気が、冷え切っていた身体の芯までじわりと溶かしていく。上の子が「今まで食べたお肉の中で一番すごい」と、普段は見せない真剣な眼差しで頬張っていた。最初にその至福の価値に気づいたのは、食いしん坊な上の子だった。

大きすぎる浴衣の袖:子供たちの小さな肩から今にもずり落ちそうな、淡い色彩の生地。畳の上を歩くたびに「ササッ、ササッ」と乾いた衣擦れの音が響き、まるで小さな幽霊が迷い込んだかのように見えた。生地の少し硬い質感が、かえって彼らを大人びて見せ、そのアンバランスさが可笑しくてたまらなかった。最初にその愛らしさに気づいたのは、ファインダー越しに彼らを追いかけていた私だった。

鬼サウナの濃厚な蒸気:肌にまとわりつく、重たくて熱い空気の塊。視界が白く濁り、自分の呼吸音だけが耳の奥で大きく、規則正しく響く。外の氷点下の世界とは正反対の、濃密な熱に包まれる感覚。サウナを出た瞬間に浴びた冷たい空気の鋭さが、むしろ心地よい快感として身体を駆け抜けた。最初にこの極上のコントラストに気づいたのは、サウナを愛してやまない夫だった。

雪の中に咲く梅の花:梅まつりで目にした、白銀の世界にぽつんと灯ったような、淡いピンク色の花びら。指先で触れればすぐに壊れてしまいそうなほど繊細で、凍てつく風に耐えて凛と咲く姿に、胸が締め付けられるような切なさと強さを感じた。冬の終わりと春の始まりが、同時にそこに在った。最初にその鮮やかな色を見つけたのは、好奇心旺盛な下の子だった。

チェックアウトの朝、泥のように眠る子供たちの寝顔に、この温もりが永遠に続けばいいと願った。

  • 子供が浴衣で走り回っても心に余裕を持てるよう、あえて空白の時間を多めに設けた計画を立てるのがおすすめです。
  • 温泉から上がった後、温かい飲み物を片手に、誰が一番面白い「ドラゴン顔」だったかを語り合う時間を大切にしてください。