← 戻る HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELS

指先が凍えて、言葉がうまく出なかった午後

指先が凍えて、言葉がうまく出なかった午後

青い静寂と、賑やかな体温

(友人Aの記憶)
重厚な扉を押し開けた瞬間、氷点下の鋭い外気と共に、古い石造りの建物が湛える特有の、湿り気を帯びた静寂が肺の奥まで満たした。HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELSのロビーに広がる深いブルー。それは単なる色彩ではなく、底の見えない深海か、あるいは夜明け前の空のような濃密な静謐さを纏っている。元銀行だったという空間の記憶が、高い天井に反響する私たちの笑い声を、どこか厳かな儀式のように変えていた。壁に刻まれたエンブレムの冷たい質感に指先で触れたとき、凍えていた感覚がゆっくりと心地よい緊張感へと溶け出していく。ここは、あらゆる孤独と心地よさを等しく受け入れる、贅沢な余白のような場所だった。

(友人Bの記憶)
「もう限界、マジで凍る!」鼻水が出そうなのを必死に堪えながら滑り込んだロビーは、目が覚めるほど鮮やかな青だった。あまりに洗練された空間に、自分たちの泥だらけのブーツがひどく不格好に浮いている気がして、思わず吹き出した。けれど、その青い静寂に身を投げ出した瞬間、肩に溜まっていた旅の強張りが、じゅわっと熱いお湯に溶けるように消えていった。チェックインを待つ間、「誰が一番先に温かい飲み物を注文できるか」でくだらない賭けをしていたけれど、結局みんな寒さで思考停止。そんな不格好な私たちの空気感さえも、この広いラウンジならすべて優しく飲み込んでくれる。その適当な居心地の良さが、何より贅沢に感じられた。

琥珀色のスープ、二つの記憶

(友人Aの記憶)
レストランバーの席で向き合ったスープカレー。器から立ち昇る白い湯気が、眼鏡を瞬時に白く曇らせる。一口運べば、北海道産の豚骨と昆布の濃厚な旨みが、幾重にも重なる地層のように舌の上に積み上がっていくのが分かった。スパイスの刺激は鋭すぎず、むしろ冬の冷え切った内臓を、ゆっくりと、けれど確実に呼び覚ますような熱量を持っている。季節の野菜が湛える土の香りと凝縮された甘みが、口の中で静かにほどけていく。それは単なる食事ではなく、身体の芯に小さな焚き火を灯すような、静謐な儀式だった。その熱が、指先の震えを止め、失いかけていた自分の輪郭を丁寧に塗り直してくれる。

(友人Bの記憶)
「見てよこの野菜の量!盛り付けのレベルが違う!」と大騒ぎしたのが正解だった。ハッチャギ カリーバーの熱い液体が喉を通るたびに、身体の芯から「あぁ、生きてる!」という野生的な感覚が突き上げてくる。友達と「どっちのスパイスがより効いているか」で言い合いながら、額にじわりと汗をかいて食べる。その混沌とした賑やかさこそが、最高の調味料だった。隣のテーブルから漏れる笑い声や、カトラリーが皿に当たる軽やかな金属音。そんな雑音が心地よいリズムとなって耳に届く。お腹が満たされると同時に、心の中の隙間まで温かいスープで満たされ、世界中の悩みなんてどうでもよくなった。最高に幸せな飽和状態だった。

凍えた心さえ溶かす、唯一の正解

結局、三人が完璧に一致した意見は、「ジュニアスイート(メゾネット)の吹き抜けから降り注ぐ静かな光と、ベッドシーツの温度が、世界で一番正解だった」ということ。二月の函館山で冷たい風に頬を叩かれ、身体が芯まで凍りついたまま部屋に戻ったとき。フローリングのひんやりとした感触から、ベッドにダイブした瞬間の包み込まれるような暖かさへの転換。それは、自ら極寒を体験したからこそ到達できた究極の快楽だった。旅の目的とは、こういう「当たり前ではない心地よさ」を分かち合うことなのかもしれない。不完全な調和こそが、私たちの旅の正体だった。

窓の外では、静かに、けれど確実に、白い夜が降り積もっていた。

  • 寒さに耐えきれなくなったときは、迷わずハッチャギ カリーバーのスープカレーで内側から温まって。
  • 赤レンガ倉庫までの五分間の散歩をあえてゆっくり歩き、冬の空気の密度を肌で感じてみて。