← 戻る JRイン 函館

霧の向こうに消えていく列車の音がした

11月の函館の空気は、肺の奥まで鋭い針のように突き刺さるほど冷たく、どこか遠い北の海から運ばれてきた潮の香りが、冬の訪れを静かに告げていた。駅に降り立った瞬間、指先から体温がさらさらと逃げていくのが分かり、私は無意識に君の厚いコートの袖をそっと掴んだ。JRイン函館へと向かう短い道のり、石畳を叩くスーツケースの乾いた音が、静まり返った街に心地よいリズムを刻んでいる。ロビーに足を踏み入れた途端、外の刺すような冷気とは対照的な、琥珀色の柔らかな温もりが肌を優しく包み込んだ。チェックインを済ませて部屋に入ったとき、まず目に飛び込んできたのは、窓の外をゆっくりと横切る列車の銀色の姿だった。トレインビューの部屋。そこには、走行音が心地よい低音となって風景の一部に溶け込む、贅沢な時間が流れている。ベッドに体を沈めると、シモンズ製マットレスの適度な反発力が、旅の緊張をゆっくりと解きほぐしていく。私たちは多くを語らなかった。ただ、遠くで響く汽笛の音が、部屋の静寂にゆっくりと溶け込んでいくのを、肩を寄せ合って聞いていた。それはまるで、長いリバーブの尾を引く音楽のように、私たちの間に心地よい余韻を残していく。「ここだけ、時間が止まっているみたいだね」と、君が小さく呟いた。北斗星をテーマにしたコンセプトルームに足を踏み入れたとき、古い照明が放つ淡い光が、記憶にないはずの懐かしさを連れてきた。かつての寝台特急の面影を残す深い色のソファに腰掛け、私たちは自分たちが今、どの時間軸に漂っているのか分からなくなった。もしかしたら、この場所だけは世界の時計とは違う速度で時が流れているのかもしれない。そんな幻想に浸っているとき、ふと、ピローコーナーでの出来事を思い出した。最高の眠りを求めて真剣に枕を選んでいた私は、「雲のような心地よさ」という言葉に惹かれ、あまりに柔らかすぎる枕を選んでしまった。頭を乗せた瞬間、白い深淵に沈み込むように底まで深く沈んでしまい、もがく私を君が静かに、そしてどこか憐れむような、けれど愛おしそうな目で見つめていた。そのときの君の、ふっと緩んだ口角が、この旅で一番鮮やかな記憶として刻まれている。大浴場に浸かると、熱いお湯が肩の凝りをじわじわと溶かし、肌がほんのりと桜色に染まっていく。外の凍てつく冷たさを知っているからこそ、この温度が、誰かに強く抱きしめられているような深い安心感に変わる。タイルに触れたときのひんやりとした感触と、視界を白く染める濃密な湯気が、意識を心地よく麻痺させてくれた。翌朝、朝食で口にした北海道産のいくらが、口の中で弾けた瞬間の濃厚な塩気と甘み。それは、この街の冬が本格的に始まる合図のように感じられた。私たちは、お互いの呼吸の速さや、沈黙の深さを、少しずつ確かめ合っていた。完璧に同期しているわけではないけれど、そのわずかなズレこそが、心地よい和音になるという気がする。チェックアウトの時間が近づき、再び外の冷気に触れたとき、私たちの手は自然と重なっていた。窓の外を走り去る列車の音が、もう一度だけ遠くで響いた。それは、ここでの時間が終わることへの寂しさではなく、次にまたここへ戻ってくるための、小さな約束のような音に聞こえた。私たちは、歩幅を無理に合わせるのではなく、ただ隣にいることを楽しんでいた。その静かな肯定感が、冷たい風の中でも心を温めてくれた。

  • 11月の冷え込みが厳しい朝は、あえてゆっくりと時間をかけて、ホテルでの朝食を堪能してほしい。
  • 列車が通り過ぎる瞬間の音に耳を澄ませながら、二人で静かに景色を眺める時間を大切にしてほしい。