← 戻る ラビスタ函館ベイANNEX

花火の音が、少しだけ遅れて届いた夜

夜の海を閉じ込めた、深い紺色の遮光カーテン

深い紺色の遮光カーテン。指先でなぞると、わずかにざらつきのある厚手の生地が、函館の夏の夜の熱気を拒むようにどっしりとそこにある。その色は、街の灯りが消えたあとの函館湾の深い底を写し取ったかのような、静謐なミッドナイトブルーだ。それをゆっくりと引くと、金属製のレールが小さく、けれど正確な音を立てて滑った。カーテンが完全に閉まった瞬間、部屋の空気はふわりと温度を下げ、窓の外に広がる夜景という名の眩しさが、一度だけ視界から消える。その遮断された空間に、私たちはようやく、自分たちの呼吸の音だけを聴くことができた。布の重みが、まるで外の世界から私たちを優しく切り離してくれる、心地よい境界線のように感じられた。指先に残る生地の冷たさと、部屋に満ちる微かなリネンの香りが、祭りの喧騒で張り詰めていた心の輪郭をゆっくりと緩めていく。ここは、何者でもなくていい、二人だけの聖域なのだという気がした。

祭りの残響と、静寂に溶けるささやき

「ねえ、まだ耳の奥で太鼓の音がしてる気がする」
あなたがベッドの端に腰を下ろして、小さく笑いながら言った。盆踊りの喧騒から逃れるように戻ってきたばかりの部屋。まだ肌には、夏の夜の湿り気と、誰かの浴衣がかすかに触れた記憶が張り付いている。私はその隣に、少しだけ距離を置いて座った。ふたりの間には、ちょうど手のひらひとつ分くらいの空白がある。
「本当だ。なんだか、ずっと遠くで誰かが呼んでるみたいな音がするね」
「もしかしたら、私たちがまだあそこに置いてきたものがあるからかもしれない」
「何を?」
「さあ、わからない。でも、そういう気がするの」
私たちはしばらくの間、どちらからともなく言葉を止めた。空調の低い唸りだけが、部屋の静寂を等間隔に刻んでいる。

光と音のあいだに、二人で潜り込む

花火というものは、不思議な時間感覚を連れてくる。空に大輪の花が咲いた瞬間、世界は一瞬だけ白く塗りつぶされるけれど、その轟音が耳に届くまでは、ほんの数秒の「空白」がある。ラビスタ函館ベイANNEXで過ごしたあの時間が、まさにその空白に似ていたと感じる。天然温泉で火照った体をゆっくりと冷まし、和洋折衷の気品ある上質な空間に身を委ねる。祭りの熱狂という強烈な光を見たあとに訪れる、静寂という名の音を待つ時間。そのラグがあるからこそ、私たちは自分たちが今、どこにいて、誰と一緒にいるのかを、皮膚感覚で理解することができたのかもしれない。

ツインベッドに二人で横たわると、肩が触れるか触れないかの絶妙な距離感があった。そのわずかな隙間に、言葉にできない安心感が溜まっていく。豪華な設備があるとか、景色が素晴らしいとか、そういうことよりも、ただ裸足で踏んだフロアのひんやりとした温度や、お風呂上がりに肌にまとった清潔なタオルの感触が、何よりも贅沢に思えた。私たちは、お互いの欠落を埋め合うのではなく、その欠落があるままに、ただ隣にいることを許し合っていた。それは、無理に正解を出そうとする会話よりもずっと誠実な、共鳴のような時間だった。チェックアウトして街に戻った後も、あの紺色のカーテンが作り出していた静寂は、心のどこかに小さな錨のように降りていて、日常の喧騒の中でも、ふとした瞬間にあの静かな温度を思い出させてくれる。

窓の外で最後の一発が弾けて、心地よい振動が部屋を揺らした。

  • 朝食の海鮮丼を、あえてゆっくりと時間をかけて味わってみること
  • 朝7時の、まだ誰も歩いていない港沿いを、ただ隣り合って歩くこと