← 戻る ラビスタ富良野ヒルズ

指先が凍えて、ラーメンの湯気に逃げ込んだ午後

指先が凍えて、ラーメンの湯気に逃げ込んだ午後

凍てつく駅前から始まる、不器用な行軍

富良野駅に降り立った瞬間、肺の奥まで凍りつくような鋭い空気が入り込んできた。3月の北海道は、まだ春が来ることを忘れたふりをしている。足元の雪は半分溶けていて、靴の底にねっとりとまとわりつき、歩くたびに重い音が響く。私たちは、誰が地図を正しく読めるかという不毛な賭けを始めた。自信満々に方向を指し示すリーダーと、その後ろで「本当にこっちで合ってる?」と疑いながらも、賑やかに喋り続ける面々。そして、寒さに耐えかねて一番後ろで肩をすくめ、足早に歩く一人。結果的に、一番自信ありげだったやつが私たちを最も遠い方向へ導いたが、不思議と誰も怒らなかった。正解に辿り着くことよりも、この凍える風の中で互いの情けない格好を笑い合うことの方が、この旅の本質に近い気がしたから。目の前に積み上がった貨物駅のコンテナが、冬の灰色い空の下で妙に誇らしげに見える。ガチャンという金属同士がぶつかる鈍い音が静まり返った街に波紋のように広がり、私たちはふと足を止めた。「ここ、なんか映画のセットみたいじゃない?」という誰かの言葉に、私たちは自分が今どこにいるのかを忘れ、ただ冷たい鉄の質感に視線を奪われていた。

雛人形の静寂と、路地裏に漂う春の予感

あてもなく歩く途中で、ふとショーウィンドウに飾られた雛人形が目に飛び込んできた。色鮮やかな衣装を纏った人形たちが、静まり返ったガラスの中で完璧な秩序を保っている。その静寂が、外で騒がしく笑い合う私たちの喧騒と鮮やかな対照をなし、なんだか申し訳ない気持ちにさえなった。私たちはそこで、今年の桜の開花予想について話し始めた。北海道の桜なんて、私たちが帰った後にゆっくりと咲くのかもしれない。けれど、その「まだ見えないもの」を待つ時間こそが、旅の醍醐味なのだと気づかされる。誰かが「賭けない? 4月に入ってもまだ蕾のままだって」と言い出し、私たちはまた、どうでもいいことに情熱を注ぎ始めた。道端で、春分の日が近いことを告げる小さな看板を見つけたとき、土の匂いがわずかに湿り気を帯びて漂い始めていることに気づく。冬の眠りから覚めようとする大地の、かすかな呼吸のような音。私たちはその小さな変化を拾い上げるために、わざと耳を澄ませた。誰かが雪の上に派手に滑って情けない声を上げたとき、私たちは同時に吹き出した。その笑い声が冷たい空気を震わせて、心地よいリズムを刻む。完璧なプランなんて最初から必要なかった。迷い込んだ路地裏で、名前も知らない店から漂ってくる出汁の香りに誘われ、私たちはまた、予定にない方向へと歩き出した。そんな不確かな時間こそが、私たちを一番自由にしてくれる。

雲上の湯気に溶ける、贅沢な空白の時間

ようやく辿り着いたラビスタ富良野ヒルズのロビーは、外の刺すような寒さを一瞬で忘れさせてくれる温もりに満ちていた。部屋に入った瞬間、私たちは誰よりも早くベッドにダイブする競争を始めた。ハリウッドツインのふかふかしたシーツが、冷え切った身体を大きな綿菓子のように優しく包み込む。その感覚は、まるで世界から切り離された心地よい繭の中に潜り込んだみたいだった。「ここは私の特等席!」という子供のような言い争いさえも、この空間では心地よい音楽のように響く。窓の外には、十勝岳の稜線が淡いブルーに染まり始めていた。遠くの山々が、呼吸を止めて私たちを見守っているような、静かな圧迫感と安心感が同居している。

そして、このホテルの真骨頂である9階の天然温泉「紫雲の湯」へ。エレベーターが上昇するたびに、期待という名の小さな振動が身体に伝わる。大浴場に足を踏み入れた瞬間、濃厚な湯気が視界を白く染め、外界との境界線を消し去った。熱いお湯に身体を沈めると、指先の芯まで凍っていた感覚が、じわりと溶け出していく。お湯の温度がちょうどよく、意識がゆっくりと遠のいていく快感。ふと顔を上げると、視界いっぱいに広がる山々の景色。空と地の境界線が曖昧になる時間帯に、私たちは言葉を失った。ただ、お湯の流れる音と、誰かが小さく漏らしたため息だけが響いている。ここでは、誰である必要もない。ただの「温かい塊」になればいいのだという解放感に包まれた。

風呂上がり、私たちは吸い寄せられるように無料ラーメンのコーナーへ向かった。深夜の静まり返った空間で、湯気を立てる一杯のラーメン。塩気の強いスープが、疲れた身体の隅々まで染み渡る。そのあとに食べる無料のアイスクリームの、暴力的なまでの冷たさ。暖かい部屋で、凍った甘さを口に運ぶという矛盾。それがたまらなく贅沢に感じられた。私たちはマッサージチェアに深く身を沈め、心地よい振動に身を任せながら、明日もまた迷子になろうと約束した。誰にも教えたくない、けれど誰かに自慢したい、そんなわがままな夜が、ゆっくりと更けていった。

窓の外で、夜の山々が深い紺色に溶け込んでいく。

  • 夜食のラーメンとアイスクリームという、極端な温度差の快楽をぜひ。
  • 9階の温泉から眺める十勝岳の稜線は、言葉を失うほどの絶景です。