← 戻る 富ノ湖ホテル

コーヒーの湯気に、山が少しだけ隠れた

コーヒーの湯気に、山が少しだけ隠れた

私たちの「大失敗」を静かに見守っていた5つのもの

厚手の掛け布団:ずっしりと身体にのしかかる安心感と、洗いたてのリネンの清潔な香りが漂う。オレンジ色の間接照明の下、深夜3時まで止まらなかった「誰が一番恥ずかしい過去を持っているか」という不毛な議論と、「いや、それはまだマシでしょ!」と笑い転げた夜。途中で誰かが寝落ちして布団を独占しようとした静かな争奪戦を、この白い海はすべて吸収していた。

バイキングの大きな皿:カトラリーがぶつかり合う高い音が心地よく響き、湯気の向こうに地元の食材が放つ芳醇な香りが舞う。誰が一番高く料理を積み上げられるかという、大人のすることとは思えない競争の舞台になった。「見て、このタワー!」と誇らしげに掲げた皿の上には、盛り付けの美しさよりも「量」に全振りした私たちの底なしの食欲が、そのまま表現されていた。

温泉の木の桶:お湯をすくうたびに、かすかに懐かしい木の香りが鼻をくすぐり、肌にまとわりつく熱い湯気が視界を白く染める。静かに浸かるはずの「霊水の湯」で、誰が一番大きな波を作れるかという、幼稚な水遊びに付き合わされた。「あはは、かかった!」と、お湯が跳ねて隣の人に謝りながらも笑いが止まらなかったあの瞬間を、この桶は静かに記憶している。

結露した窓ガラス:指先で触れると、ひやりとした冷たさが肌に張り付き、外の凍てつく空気を感じさせる。窓の外に広がる富士山と、湖面に映る逆さ富士の絶景を前にして、「あっちの方が山が高く見える気がする」という根拠のない言い争いが始まり、気づけばガラスには誰かが描いた、あまりに下手くそな似顔絵が白く浮かび上がっていた。

大きすぎる館内スリッパ:廊下の絨毯を滑るたびに「シュッ、シュッ」と軽い音が鳴り、足元から心地よい脱力感が伝わってくる。深夜にコンビニまで行こうとして、静まり返った廊下でペンギンみたいに左右に揺れながら歩いた私たちの不格好な足取りを、このスリッパは忠実に記録していたはずだ。

もし、この部屋の壁が喋れたとしたら

きっと彼らは、私たちを「静寂を壊しに来た心地よいノイズ」と呼ぶだろう。2月の河口湖は、空気が張り詰めていて、世界中の音が凍りついているみたいに静かだ。でも、富ノ湖ホテルの部屋に足を踏み入れた瞬間、その張り詰めた表面張力が、私たちの笑い声でぷつりと切れた。

心地よい温度に包まれた空間で、私たちはわざと効率の悪い回り道をし、意味のないことで言い合い、それからお腹いっぱい食べて泥のように眠った。それはまるで、鏡のように静まり返った湖の表面に、誰かがわざと小石を投げ込んだときのような波紋。でも、その波紋があるからこそ、ここにある静けさがより際立って感じられたのかもしれない。

「完璧な旅なんて、つまらないよね」

ふと漏らした誰かの独り言に、みんなが深く頷いた。不器用な旅の仕方は、もしかすると一番贅沢な時間の使い方だ。完璧なスケジュールよりも、誰かが忘れ物をしたり、道に迷ったりして、結果的に予定になかった梅まつりの花びらが肩に落ちてきたことの方が、ずっと記憶に深く刻まれる。私たちは、この場所で「何もしないこと」ではなく、「一緒に迷うこと」を心から楽しんでいたのだと思う。

窓の外で、深い群青色の夜がゆっくりと白んでいくのを、肩を寄せ合って眺めていた。

  • 2月の冷え込みは想像以上なので、厚手の靴下を履いて、温かい飲み物を手にしてから外へ出るのが正解。
  • 富士山の見え方は時間で変わるから、早起きして窓を開け、冷たい空気と共に絶景を飲み込んでみて。