5年後の私たちへ。あの6月の神戸、雨ばかりだったけど、不思議と心地よかったよね。誰が一番に「最悪だ」と言うか賭けていたけど、結果的にみんな黙って海を見ていた、あの時間を書き残しておくね。
5年後もきっと、指先に残っている記憶
午前2時のバルコニーの冷たさ
濡れた手すりに触れた時の、あのひやりとした金属の質感。神戸メリケンパーク オリエンタルホテルの部屋から一歩外へ出ると、そこはもう海の上。雨粒がリズムを刻んで、街のノイズが遠い残響のように消えていく感覚は、きっと今でも思い出せるはず。
エメラルドブルーの点滅
夜の闇に溶け込むホテルの灯台が放つ、特定の周波数のような光。あの色が水面に反射して揺れているのを見て、私たちは「ここ、本当に陸地なのかな」なんて言い合った。正解は分かっているのに、あえて疑いたくなる心地よさがあったよね。
紫陽花とスマートフォンの惨劇
雨に濡れた紫陽花を「エモく」撮ろうとして、画面が水浸しになり、挙句の果てに足元が滑って変なポーズになった誰かの笑い声。完璧な計画なんて最初からなくていい。むしろ、あの不格好な瞬間こそが、この旅のメインディッシュだった気がする。
朝7時の、静かなコーヒーの温度
まだ誰も起きていないラウンジで、カップから立ち上る湯気を見つめていた時間。窓の外に広がる灰色の空と海が、境界線なく混ざり合っていた。あの静寂には、何か正解に近い答えが隠れていたのかもしれない。
5年後の封印を解いたとき
おそらく、食べたものの詳細や、訪れた観光地の名前は忘れているかもしれない。でも、Executive Corner Twinのあの部屋に足を踏み入れた瞬間の、視界がパッと開ける感覚だけは残っていると思う。遮光カーテンをゆっくりと開けたとき、目に飛び込んできたのは、淡いグレーに染まった神戸の海。湿り気を帯びた風が、わずかに開いた窓から忍び込み、部屋の中の凛とした静寂を心地よくかき乱していた。
270度、ほぼ全方向を海に囲まれているあの空間は、まるで大きな白い船に守られているみたいだった。誰かがふと、「ねえ、ここ、本当に陸地なのかな」と呟いた。その声が、遠くで鳴る船笛の低い響きに溶けて消えていく。私たちは、都会の喧騒から完全に切り離された、贅沢な漂流をしていたのかもしれない。
ベッドから窓までの距離を測りながら、私たちは自分たちがどこに属しているのかさえ忘れて、ただ心地よい浮遊感に身を任せていた。肌に触れるリネンのパリッとした清潔な感触と、窓の外に広がる無限の水平線。この部屋は、海という巨大なキャンバスに浮かぶ、真っ白な特等席だった。あの時の、心地よい不安と期待が混ざった感情は、きっと今の私たちを形作る一部になっているはず。
雨上がりのテラスに、一粒だけ残っていた雫。
- 6月の神戸を訪れるなら、あえて「雨の日専用のプレイリスト」を作って持っていくこと。
- ホテルのバルコニーで、あえて何も話さずに10分間だけ海を眺めてみて。