← 戻る スーパーホテル熊本駅前天然温泉

濡れた靴底と、誰かが笑ったあとの静寂

濡れた靴底と、誰かが笑ったあとの静寂

同じ夜、二つの記憶

(Aの視点)
JR熊本駅の白川口を出た瞬間、2月の風がナイフみたいに頬をかすめた。指先がじりじりと冷えて、コートのポケットの中で拳を握りしめる。そんなとき、視界に入ったスーパーホテル 熊本駅前天然温泉の入り口は、なんだか避難所のようだった。自動ドアが開いた瞬間、肺の奥まで届く温かい空気に包まれて、強張っていた肩の力がふっと抜ける。ロビーに漂うオーガニックアメニティの、どこか懐かしい植物のような香りがして、ようやく「着いた」という実感が、足の裏からゆっくりと上がってきた気がする。


(Bの視点) 「絶対、誰かが地図を読み間違える」って賭けていたけど、結果は私の勝ち。駅からのわずか2分の道のりで、私たちは三回も同じ角を曲がった。キャリーケースがアスファルトを叩く不規則なリズムと、お互いの不手際を笑い合う声が、冬の澄んだ空気に溶けていく。フロントでアメニティを5点選ぶとき、どれにするか本気で悩みすぎて、後ろに並んでいた人に申し訳なくなるくらい時間をかけた。でも、その迷っている時間さえ、この旅の正しいリズムだったのかもしれない。

同じ一杯、二つの味わい

(Aの視点)
ウェルカムバーで手に取ったワイングラスの、ひんやりとした重み。液体が揺れるたびに、ラウンジの淡い照明がグラスの中で屈折して、小さな光の粒が踊っていた。一口飲むと、心地よい酸味が喉を通って、体の中にゆっくりと小さな灯がともる感覚。誰が何を飲んでいるか、なんてどうでもよかった。ただ、冷え切った体にアルコールが染み渡るその感覚だけが、今の私にとっての正解だった気がする。


(Bの視点) ラウンジの隅にあるプロジェクタールームの、あの薄暗い静けさが好きだった。誰かが小さく笑う声や、氷がグラスに当たるカランという音が、心地よいBGMみたいに響いている。私たちは、明日どこへ行くかという計画よりも、今日誰が一番ひどい顔で寝ていたかという、どうでもいい議題で盛り上がっていた。お酒の味よりも、隣で誰かが笑っているという空気感の方が、ずっと濃く、心地よく感じられた。そういう、意味のない会話に時間を溶かす贅沢こそが、旅の醍醐味なのだろう。

私たちが唯一、同意したこと

結局、この旅で一番の正解は、天然温泉「美肌の湯」に浸かった瞬間だった。裸足で踏んだタイルのひんやりとした温度から、一気に熱い湯に身を投げ出す。弱アルカリ性のお湯が肌に吸い付くようにまとわりつき、関節の強張りが、ゆっくりと、でも確実にほどけていく。

もともと、私たちは似ているようで全然違う。好きな音楽も、歩く速度も、正解だと思う答えも違う。けれど、湯船の中でただぼーっと天井を眺めていたときだけは、同じ周波数にいた気がした。言葉にする必要なんてない。ただ、お湯の温度がちょうどよかったこと。それだけで十分だった。

あ、そういえば、8種類もある枕の中から「一番寝心地が悪そうなやつ」を選ぶっていう、くだらない賭けをしたっけ。私が選んだのは、なんだか巨大な豆腐みたいな感触の枕で、実際に頭を乗せたとき、あまりの違和感にみんなで大爆笑した。あのとき、部屋に響いた笑い声だけは、きっと一生忘れられない。

14平米の部屋は、三人で使うには少しだけ狭いかもしれない。けれど、その狭さが、かえって私たちの距離を縮めてくれた。ベッドから照明のスイッチまで、あと数歩。その短い距離に、心地よい親密さが詰まっていた。スーパーホテル 熊本駅前天然温泉での夜は、そうやって、小さな違和感と大きな安心感の間で、静かに更けていった。

明日の朝、目が覚めたときに、またあの焼きたてのパンの香りがすることを願っている。


濡れた靴底を脱いで、心地よい眠りに落ちるまでの、短い静寂。
  • 8種類の枕があるから、あえて「自分に合わないもの」を探して友達と笑い合ってみて。
  • ウェルカムバーでは、あえて計画を立てずに、ただの間抜けた会話に時間を溶かすのがおすすめ。