← 戻る アンドコンフィホテル熊本城ビュー

朝の光の中で、肩と肩の距離を測っていた

予約ボタンを押すのを迷っているあなたへ。行き先を決めることより、空気が冷たくなった時に誰の隣にいたいか。そんな単純なことが、一番難しいのかもしれない。もし、今の二人が少しだけ不器用なリズムで歩いているのなら、この場所がちょうどいいかもしれません。静寂が、二人の距離を優しく埋めてくれるはずだから。

灰色の石垣が、静かに呼吸をしていた朝

指先に触れるリネンのひんやりとした質感で目が覚めた。アンドコンフィホテル熊本城ビューのダブルルームで、まだ半分眠っている意識の隙間に、冬の澄んだ空気が入り込んでくる。カーテンを開けると、そこには朝6時の青い光に包まれた熊本城があった。それは単なる「景色」ではなく、街全体を静かに見守る巨大な石の塊がそこに在るという、圧倒的な質量だった。シモンズ製ベッドの心地よい沈み込みに体を預けながら、隣で眠るあなたの規則正しい呼吸の音を聴く。「まだ、眠いね」と小さく呟いた私の声が、静まり返った部屋に溶けていった。

1階のレストランへ降りると、出汁の香りと共に、温かいお味噌汁の湯気が視界を白く染める。熊本県産のお米が炊き上がる甘い匂いは、どこか懐かしく、胃のあたりをじんわりと温めてくれた。おかわり自由のカレーに手を伸ばしたとき、あなたとスプーンが軽く触れ合う。お互いに「あ」と声を出し、同時に小さく笑った。その瞬間の小さな温度が、どんな計画された旅程よりもずっと親密に感じられた。

ロビーに展示された絵画の色彩が、旅の始まりに静かな高揚感を与えてくれる。ホテルを出て、市電通町筋の喧騒が始まる前の静かな道を歩き出す。2月の熊本は、空気がピンと張り詰めていて、肺の奥まで冷たい。熊本城へと向かう10分ほどの道のり、足元から伝わるアスファルトの硬さと、時折吹き抜ける風の冷たさが、自分が今ここにいることを教えてくれる。歩幅を合わせようとして、少しだけ足がもつれた。あなたは何も言わずに、私の歩調に合わせて速度を落とした。そのわずかな配慮が、言葉よりもずっと雄弁に、今の私たちの距離を物語っている気がした。

届かない距離を、心地よいと感じる夜

夕暮れ時、私たちは屋上城見テラスに登った。手すりの金属が指先から体温を奪い、頬を打つ風が冬の訪れを告げている。目の前には、ライトアップされた熊本城が夜の闇に浮かび上がっていた。昼間の灰色だった石垣が黄金色に変わり、まるで静かに呼吸を始めた生き物のようだ。私たちはあえて多くを語らなかった。ただ、隣り合って立っているだけで十分だった。

ふと気づくと、あなたの肩が少しだけ震えている。私は自分のコートのポケットの中で、握りしめていた手のひらの熱を思い出していた。勇気を出して、指先をあなたの袖口に触れさせたとき、そこにあった確かな体温。現代的なホテルの快適さと、目の前に鎮座する古城の厳格さ。その対比が、私たちの不安定な関係を不思議と肯定してくれる気がした。私たちは完璧な二人ではないし、これからも迷いながら、お互いの周波数を探り合うのだろう。けれど、この冷たい風の中で、体温を分け合うという単純な行為が、今の私たちには一番必要なことだったのだと思う。

梅まつりの時期が近づいているという話を聞いた。どこかで誰かが植えた梅の花が、この寒さの中でひっそりと、けれど確実に蕾を膨らませている。その静かな準備のように、私たちの関係も、時間をかけてゆっくりと形を変えていくのだろう。正解なんてないし、目的地なんてどこでもいい。ただ、この街の静寂と、あなたの隣にある空白を、もう少しだけ味わっていたいと思った。

冬の静寂と、あなたの隣にあった空白から。

  • 早朝の冷たい空気を吸い込みながら、誰もいない城下町を二人でゆっくり歩いてみてください。
  • 朝食のカレーをお互いに取り分けて、小さな味の好みの違いを話し合ってみてください。