← 戻る insomnia KYOTO OIKE

青い壁に触れた小さな指先の温度

青い壁に触れた小さな指先の温度

「ねえ、壁がズボンになってるよ!」

地下鉄「烏丸御池」駅から歩いてすぐの場所。九月の京都はまだ湿り気を帯びており、肌にまとわりつくような濃密な空気が街全体を包み込んでいた。期待に胸を膨らませて insomnia KYOTO OIKE のドアを開けた瞬間、下の子が真っ先に駆け寄ったのは、意外にも壁だった。小さな指先で好奇心いっぱいになぞったのは、深く濃いインディゴブルーのデニム生地。子供にとって、壁が布でできているなんてことは、この世で最も不思議で刺激的な出来事なのだろう。「ここ、誰かの大きなズボンなの?」と、真剣な眼差しで問いかけてくる。大人が「モダンなインテリアだね」という言葉で片付けてしまう空間が、彼にとっては巨大なパズルのピースか、あるいは秘密の隠れ家のように映っている。上の子もまた、弟を少し冷めた目で見ていたけれど、その指先はデニムのざらりとした質感に吸い寄せられ、心地よい摩擦音に耳を傾けていた。その小さな手のひらが、ホテルの静謐な空気に、心地よい波紋を広げていく。

24時間ラウンジという名の宝島

焼きたてのデニッシュが放つ、甘くて香ばしいバターの匂いに誘われて、私たちは一階のラウンジへ向かった。そこは家族にとっての「作戦会議室」であり、同時に子供たちにとっては終わりのない宝探し会場のような場所だ。24時間ラウンジサービスという贅沢な空間で、下の子は色とりどりのジュースが並ぶサーバーを前に、人生最大の悩み事に直面していた。「どれにしようかな」と呟く小さな口元。上の子は「こっちのパンの方が美味しいよ」と譲らず、結局二人で一つの皿に山盛りのペストリーを盛り付けた。彼らの目は、キラキラとした好奇心で満ちている。ライブラリーに並ぶ本のページをめくる乾いた音、SAKEサーバーの不思議な造形を、まるで宇宙船の操縦席かのように眺める横顔。親である私たちは、彼らが自由に空間を探索する様子を、ふかふかのソファに深く身を沈めて眺めていた。予定通りに進まない旅。地図にない方向へ歩き出したくなる衝動。そんな混沌とした時間が、この織りなされた空間の中では、最高の贅沢な遊びに変わる。子供たちが「次はあそこに行こう!」と指差す方向には、いつも大人が見落としてしまう小さな発見が転がっている気がした。

降り注ぐ雨に、親であることを脱ぎ捨てる

夜、子供たちが泥のように眠りにつき、superior double の部屋に本当の静寂が訪れた。ベッドの中で規則正しく繰り返される小さな寝息だけが、今のこの空間にある唯一の旋律だ。私はゆっくりとバスルームへ向かい、オーバーヘッドシャワーの下に立った。上から降り注ぐ力強い水流は、まるで優しい秋の雨のように身体を包み込む。ボディシャワーの微細なミストが、一日中子供たちを追いかけていた緊張で強張った肩の筋肉を、ゆっくりと、丁寧に解きほぐしていく。水滴が肌を叩く心地よい刺激に集中していると、自分が「親」である前に、ただの一人の「人間」に戻っていく感覚があった。お湯の温度が芯まで浸透し、指先の先までじんわりと温かさが広がっていく。風呂上がりに裸足で踏んだタイルのひんやりとした冷たさが、心地よく意識を鮮明に呼び覚ます。窓の外に目を向ければ、九月の夜空に少しだけ欠けた月が静かに浮かんでいた。遠くで揺れるススキの穂を想像しながら、冷たい水で喉を潤す。誰にも邪魔されない、この空白の時間。何もしないこと、ただそこに在ることの充足感。デニムの柔らかな包容力に身を任せ、私もまた、深い眠りの淵へと沈んでいった。明日になればまた、賑やかな混沌が始まる。けれど、今の私は、この静寂という名の贅沢を、誰にも渡したくないと思っている。

枕元に残された、子供が拾ってきた小さな石ころを眺めて、ふっと笑った。

  • レンタサイクルを借りて、御池通りの街路樹の下をゆっくり走り、子供と一緒に秋の風を肌で感じてみてください。
  • 24時間ラウンジのパンを贅沢に盛り付け、家族で「明日はどこで迷子になろうか」と作戦会議をする時間を。