「誰のせいだ」という不毛な喧嘩の心地よさ
「ねえ、マジで誰が予約したの?このルート、効率悪すぎない?」
「いや、計画立てたのは君じゃん!私はただ『いいよ』って言っただけだし」
「嘘つけ!あの時『任せて』ってドヤ顔で言ったよね!あーもう、外暑すぎて脳みそが沸騰して溶け出したわ」
「まあまあ。とりあえず、このキンキンに冷えた空間に救われたよね。見てよこの部屋、広すぎて迷子になれるレベルなんだけど」
「本当だ。っていうか、車でそのまま部屋の下まで入れるの、控えめに言って最高すぎない?荷物運ぶ手間ゼロとか、天才の設計でしょ」
「ふふん、私の選択眼を信じなさいよ。あ、見て、このベッド!一度潜ったら二度と出られない気がする」
「賭けてもいいけど、明日誰か絶対起きられないよね。多分、私だと思う」
「いや、絶対君だって。あはは!」
湿った世界を遮断する、白い静寂の繭
外は、何度も揉みくちゃにされた手紙のような、どんよりとした八月の空が広がっていた。肌にまとわりつく湿度は、まるで濡れた布を全身に巻いているかのように不快で、歩くたびにサンダルがアスファルトにねっとりと吸い付く音が聞こえる。けれど、歐遊國際連鎖精品旅館-新莊館の重いドアを閉めた瞬間、その不快感は完全に消え去った。耳に届くのは、空調が吐き出す低い周波数の唸りと、冷たい空気が肌を刺す鋭い感覚だけ。
裸足で踏んだタイルのひんやりとした温度が、火照った足裏から熱を奪っていく。その心地よさに、つい小さく吐息が漏れた。モダンな設備が整ったスイートルームは、外の喧騒をすべて飲み込んでしまう巨大なスポンジのようだ。壁に設置された大きな平面テレビが静かに佇み、部屋の隅にある按摩浴缸(マッサージ浴槽)からは、これから浸かる贅沢な時間が予感される。
特に気に入ったのは、照明の切り替えスイッチの感触だ。指先で軽く触れるたびに、部屋の表情がゆっくりと変わる。真っ白な光から、琥珀色の深い闇へ。そのグラデーションを見ていると、自分たちが今、現実世界のどのあたりにいるのか分からなくなる。もしかしたら、この部屋だけが時間の流れから切り離された、特別な真空地帯なのかもしれない。
さっきまで食べていた海鮮鍋の、あの濃厚なエビの香りがまだ服に残っている気がする。けれど、ここではそれが不快ではなく、心地よい旅の記憶として漂っている。大きなベッドに体を沈めると、シーツのパリッとした冷たさが、心地よく背中に張り付いた。この広さがあれば、誰がどこで寝てもぶつからない。お互いのパーソナルスペースを保ったまま、けれど同じ空気を共有している。そんな贅沢な距離感が、ここにはあった。
午前二時の、少しだけ正直な声
「……ねえ、私たち、十年後もこんな風にくだらないことで喧嘩してるかな」
「どうだろうね。多分、もっとひどい言い合いになってると思うよ」
「あはは、そうかもね。でも、そういうのがいいよね」
「……まあ、そうかな。正直、今回の旅行、行く前はちょっと不安だったし。仕事のこととか、色々あったしね」
「わかる。私も。でも、こうやって冷たい部屋で、何も考えずに寝転がってると、そういう悩みも全部、この広い部屋のどこかに溶けて消えちゃう気がする」
「……そうだね。なんか、ここでは何色でいてもいい気がする」
「うん。とりあえず、明日の朝ごはんは絶対遅刻しようね」
「賛成。誰が一番最後に起きるか、もう一回賭ける?」
「いいよ、乗った」
冷房の風に吹かれながら、私たちはゆっくりと深い眠りに落ちていった。
- 部屋の照明を一番暗くして、誰が一番先に寝落ちするか選手権を開催することをおすすめします。
- チェックアウト後の朝食は、あえてゆっくり時間をかけて、旅の余韻を味わい尽くしてください。