← 戻る 傑仕堡有氧酒店

濡れたアスファルトに反射する、名前のない光

湿った風と、迷子へのささやかな賭け

板橋駅に降り立った瞬間、肺の奥までじっとりと濡れるような熱帯の湿気に包まれた。六月の台湾は、空気がそのまま質量を持っているかのようだ。肌にまとわりつく不快なはずの湿度が、なぜか旅の始まりを告げる心地よい合図のように感じられた。私たちは駅の出口で、「誰が一番先に道を間違えるか」という不毛で贅沢な賭けを始めた。「大丈夫、俺に任せろ。地図は完璧だ」と自信満々に言い切ったナビ担当の友人が、見事に逆方向へ歩き出した時のあの呆然とした顔。信じられないことに、彼は三回、同じコンビニの前を通り過ぎた。誰かが深くため息をつき、誰かがそれを腹を抱えて笑い飛ばす。そんな不協和音さえも、街の喧騒に溶け込んで心地よいリズムになっていた。MRTのドアが閉まる乾いた金属音と、遠くで鳴り始めた蝉の声。夏の始まりを告げる不機嫌な暑さが、私たちの期待感をじりじりと煽っていた。

雨上がりの街が描く、虹色のプリズム

傑仕堡酒店に向かうまでのわずか数分。忽然、空が低くなり、激しい雨が降り出した。私たちは慌てて、古びた店舗の軒下に逃げ込んだ。アスファルトから立ち上がる熱い蒸気が、視界を白くぼやかしていく。雨に濡れたコンクリートの匂いと、どこからか漂ってくる甘い点心の香りが混ざり合い、この街特有の混沌とした空気を形作っていた。ふと横を見ると、ショーウィンドウのガラスに付いた雨粒が、街のネオンを細かく砕いて、虹色の光を散らしていた。光が屈折して、本来そこにはないはずの色が生まれる。そんな現象を眺めていたら、「今の自分たちの関係みたいだ」とふと思った。バラバラな方向を向いているけれど、同じ場所に集まれば、不思議と心地よい色彩になる。道端に貼られた音楽祭のポスターが、湿った風に揺れてパタパタと音を立てている。雨の匂いと、誰かの笑い声、そして遠くで鳴るクラクション。そんな不完全な要素が重なり合って、旅の輪郭がゆっくりと形作られていく感覚があった。

17階の静寂と、とろける黄金色の記憶

ロビーに足を踏み入れた瞬間、外の喧騒が嘘のように消え、ひんやりとした静寂が肌を撫でた。傑仕堡酒店の空間は、余計な装飾が削ぎ落とされた簡約な美しさがあり、呼吸が深く、ゆっくりになる。部屋に入ると同時に、「どっちのベッドがいいか」という激しい議論が始まった。「窓側は俺だ!」と叫んで飛び込んだ友人と、それを呆れ顔で見る私たち。結局ジャンケンで決まったが、負けた友人が不満げに真っ白な清潔な枕を抱えている姿に、またみんなで笑い合った。

けれど、この旅の真の贅沢は、17階にあるスパにこそあった。弱酸性の炭酸泉に身を沈めると、小さな泡が皮膚を優しく刺激する。それはまるで、目に見えない光の粒が体に触れているかのようだった。肌に張り付いた旅の疲れが、泡と共にゆっくりと剥がれ落ちていく。北海道産のブラックシリカ岩盤浴で芯から体を温め、天井を眺めていると、思考が溶けて「今、ここにいる」ということだけが鮮明になった。窓の外には新北のスカイラインが広がり、夕暮れの街が淡い紫色のグラデーションに染まっている。

お風呂上がりに食べた、キンキンに冷えたマンゴー。濃厚な甘さが舌の上でとろけ、喉を通る瞬間の快感は、言葉にするのが難しいほどだった。指先に残った甘い香りと、冷房で心地よく冷やされたシーツの質感。裸足で踏むタイルのひんやりとした温度が、私たちを深い眠りへと誘った。誰かが小さく寝息を立て始め、誰かがまだスマホで明日の計画を立てている。そんな、なんてことない時間が、この上なく贅沢に感じられた。完璧なプランなんて必要なかったのだ。ただ、心地よい温度と、信頼できる誰かが隣にいて、美味しいものを食べる。それだけで、十分すぎるほど満たされていた。

窓の外でまた雨が降り始め、街の灯りが滲んで、優しい光の海になっていた。

  • 965番バスを利用すれば、九份や金瓜石へ簡単にアクセスでき、身軽な冒険が楽しめる。
  • 17階のスパは、夜遅い時間帯に訪れると、静寂の中で都市の夜景を独り占めできる。

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La Foresta レストラン

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