外気は、濡れたタオルを肌に押し当てられているような重さだった。カル登ホテル台中館のロビーに足を踏み入れた瞬間、冷房の冷気が皮膚の表面をなで、じわりと汗が引いていくのがわかる。チェックインを済ませて部屋のドアを開けると、そこには静寂があった。まず目に飛び込んできたのは、窓から差し込む午後の強い光と、それを遮るように整えられた真っ白なシーツの質感。指先で触れると、少しひんやりとしていて、ピンと張った生地が心地よい。部屋の隅まで歩くとき、自分の足音がカーペットに吸い込まれていく感覚がして、ここだけ時間が別の速度で流れているのかもしれないと感じた。バスルームまでの数歩の距離にさえ、心地よい空白がある。ただ、そこに誰かが一緒にいるという事実だけが、輪郭を持ってそこにあった。
隣を歩く君の呼吸が、少しだけ速い気がした。エレベーターの中で、どちらが先に口を開くべきか迷っている間、ボタンの金属的な冷たさが指先に伝わってくる。部屋に入ったとき、君はすぐに窓辺へ行き、外の景色を眺めていた。逆光で君の表情は見えなかったけれど、肩の力がふっと抜けたのが分かった。スーツケースのキャスターが床を転がる乾いた音が、静かな部屋に小さく響く。私たちは、あえて多くを語らなかった。言葉にするよりも、この冷たい空気感に身を任せている方が、今の私たちにはちょうどいいのかもしれない。ふと気づくと、君が履いているホテルのスリッパが少し大きくて、歩くたびにカポカポと音がしている。その不格好なリズムに、緊張していた胸のあたりが少しだけ緩んだ気がした。
ふたりが気づいたこと
午後の3時過ぎ、不意に空の色が変わった。8月の台中らしい、激しい雷雨だった。窓ガラスを叩く雨粒の音が、不規則なリズムで部屋を満たしていく。外の世界が激しく塗り替えられていくなかで、私たちは部屋のなかで、ただその音を聴いていた。そんなとき、ホテル内の「享Share」で注文した揚げ鶏が届いた。一口かじったときの、あの鋭い「サクッ」という音。熱い油の香りと、じゅわっと溢れる肉汁の温度。その単純で暴力的なまでの美味しさに、ふたりで顔を見合わせて小さく笑った。美味しいものは、難しい会話を必要としない。
その後、雨が上がったタイミングで外に出た。草悟道へと向かう道すがら、濡れたアスファルトから立ち上がる独特の土の匂いが鼻をくすぐる。湿度はまだ高いけれど、雨上がりの風はどこか透明で、肌に触れる感覚が柔らかかった。並んで歩きながら、わざとゆっくりと歩幅を合わせた。完璧にリズムが合うわけではないけれど、少しずつ、お互いの歩調が同期していく過程。それは、正解を探すことよりもずっと大切なことのように思えた。私たちはきっと、これからも不器用なまま、こうして少しずつ歩幅を合わせていくのだろうという気がする。
窓の外で、遠くの雷鳴が低く響き、シーツの冷たさが心地いい。
- 8月の午後は、あえて予定を決めずに草悟道をゆっくり散歩することをお勧めします。
- 「享Share」の揚げ鶏は、雨の日の静かな部屋でゆっくり味わうのが一番贅沢な方法かもしれません。