「ねえ、ぶっちゃけ、さっきのルート完全に間違ってたよね?」
「違うって!グーグルマップにはこっちだって書いてあったし。多分、台中が地図をなめてるんだよ」
「言い訳がひどいな。君がただお腹空いてて、途中の屋台の匂いに吸い寄せられただけでしょ」
「うるさいな。まあ、結果的にあのお店のタピオカは正解だったし」
「出た、正解っていう便利な言葉。僕たちが一時間も迷った時間は誰が責任取るの?」
「いいじゃん、冒険だよ。それに、この絶望的な方向音痴さこそが僕らのチームの醍醐味でしょ」
「最悪の醍醐味だわ。もういい、次は僕が持つから、君は黙って歩いてて」
周囲を飛び交うスクーターの喧騒と、むせ返るような熱帯の湿り気の中、僕たちは笑いながら言い合いを続けていた。
白い静寂に溶ける、旅の疲れと心地よい反発
賀緹酒店の部屋に足を踏み入れた瞬間、外の喧騒がふっと途切れた。三月の台中の空気は、まだ少しだけ冬の名残があって、肌に触れるとひんやりとして心地いい。休閒風客房という名の通り、シンプルで落ち着いた空間が広がっており、エアコンの風がかすかに鳴る音が、かえって室内の静寂を強調している。裸足で踏んだフローリングの温度は、ちょうどいい冷たさで、歩くたびに足裏から緊張が抜けていくのがわかった。
ベッドに体を預けると、マットレスは予想以上に硬めだった。けれど、その反発力が不思議と心地いい。ふわふわとした心地よさに溺れるよりも、今の僕たちには、地面にしっかり足がついていることを思い出させてくれるような、この確かな手応えが必要だったのかもしれない。それはまるで、旅の途中で散らばった意識を、ゆっくりと中心に集めてくれる錨のような感覚だった。
ロビーにある「拾本書堂」の書棚を通り過ぎるとき、古い紙と新しいインクが混ざったような、乾いた知的な匂いが鼻をくすぐった。あそこは、僕たちの騒がしい笑い声を静かに吸い込んでくれる、巨大な耳のような場所だ。誰かが適当に手に取った本のページをめくる乾いた音。それ以外の雑音が消えていく感覚。部屋からバスルームまでの、わずか数歩の距離。その短い空間に、誰にも邪魔されない僕たちだけの領土があると感じたとき、心の中にあった凝り固まった結び目が、ゆっくりと解けていくのがわかった。
翌朝、レストランで向き合ったとき、目の前には湯気が立ち上る虱目魚粥があった。スプーンですくい上げると、白くて温かい液体が、ゆっくりと喉を通っていく。その温かさが胃に届くまでの数分間、僕たちは不思議と誰も喋らなかった。昨日の言い合いも、迷路のような道も、全部この温かい粥と一緒に飲み込んでしまったみたいに。窓の外には、三月の淡い黄色い光が降り注いでいて、世界が少しだけ優しく書き換えられたような、そんな錯覚に陥った。
午前二時の青い光と、剥き出しの本音
「……なあ、ぶっちゃけ、今の仕事、もう限界に近い気がする」
「ん。まあ、そうだろうね。君、最近ずっと疲れた顔してたし」
「あはは、バレてたか。まあ、いいけど。明日になればまた、あのアホみたいな日常に戻るわけだし」
「いいじゃん。戻ってからまた、こうやって逃げてくればいいよ」
「……まあ、そうかもね」
画面の中ではプレイステーション5のキャラクターが激しく動いているけれど、僕たちの声は低く、ゆっくりとしたリズムで部屋に溶けていた。青白い光が照らす深夜の静寂は、昼間の喧騒では決して出せなかった正直な言葉を引き出す。正解なんてないけれど、今ここで、隣に誰かがいて、同じ温度の空気を吸っている。それだけで、十分な気がした。
スーツケースのジッパーを閉める鋭い金属音が、静まり返った部屋に小さく響いた。
- 朝食の虱目魚粥は、心まで温まるから絶対に食べてほしい。
- 拾本書堂の静寂に身を任せて、あえて何も読まずに時間を潰すのがおすすめ。