赤い屋根の下で、誰かが小さく笑った
赤い瓦屋根 新宿駅の激しい奔流のような人混みを抜け、静寂へと歩を進めること5分。視界に飛び込んできたのは、70年代の記憶をそのまま湛えたような、少し褪せた赤色の瓦だった。冬の終わりの鈍色の空とぶつかり合い、不思議と心を凪の状態にしてくれる色…
浴衣の裾が少しだけ濡れていた午後
新宿駅の南口に降り立った瞬間、肺の奥まで流れ込んできたのは、熱を帯びたアスファルトの匂いと、誰かが通り過ぎた後の濃密な香水の香りが混ざり合った、東京の夏の空気だった。八月の陽光は容赦なく降り注ぎ、湿り気を帯びた風が皮膚にねっとりと張り付く。…