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冷たい空気の匂いと、分け合った毛布の重さ

冷たい空気の匂いと、分け合った毛布の重さ

カードキーをかざした瞬間、「カチリ」という乾いた音が静かな廊下に響いた。家のドアを開けるときよりも、どこか期待に満ちた高い音がした気がする。

下の子が、靴を脱ぐのも忘れて部屋に飛び込んだ。裸足がフローリングに触れた瞬間の、ひんやりとした鋭い感触。そこから厚手のラグに足を踏み入れたときの、もこもことした柔らかさへの心地よい切り替わり。子供の足取りはいつも不規則で、そのリズムが部屋の空気を軽やかにかき混ぜていく。fav HAKODATEのエグゼクティブバンクという贅沢な空間は、彼らにとっては果てしない遊び場だったのだろう。「わあ、すごい!」という歓声と共に、壁に飾られたヘラルボニーのアートの鮮やかな色彩が、走り回る子供の視線に飛び込んでいく。その奔放な色が、子供たちの心を解き放っていたのかもしれない。


深い溜息と一緒に、クイーンベッドの白い海に体を沈めた。パリッとしたリネンの質感と、身体を優しく押し返す適度な反発力が、一日中函館の街を歩き回った足の疲れを、ゆっくりと吸い上げていく。バスルームまでの距離を、心の中で数えてみる。十歩、あるいは十二歩。そのわずかな距離があることで、ここが単なる宿泊施設ではなく、旅先にある「もうひとつの家」のように感じられた。湯気に包まれ、お湯の温度がちょうどよく肌に馴染むと、指先からゆっくりと体温が戻ってくる。誰にも邪魔されない、聖域のような数分間。ただ、水滴がタイルに落ちる規則正しい音だけが、心地よいメトロノームのように耳に届いていた。
キッチンから聞こえてくる、カチャカチャという食器の軽やかな音。お湯が沸き上がるまでの、しんとした、けれど期待に満ちた待ち時間。誰かがふふっと笑い、誰かがとりとめもない話を言い合い、その声が重なり合ってひとつの柔らかな和音になる。それは、かつてロンドンのスタジオで耳にした完璧に調整された音響よりも、ずっと不完全で、それでいてこの上なく心地いい周波数だった。冷蔵庫が発する低いハム音が、家族の会話の背景に静かに溶け込んでいる。そんな日常的な些細な音が、「ここに居てもいいのだ」という深い安心感を、静かに、けれど確実に与えてくれる気がした。
朝市で買ったばかりの、宝石のように輝く海鮮丼。口の中でぷちりと弾けるイクラの濃厚な塩気と、冷たい空気の中で啜る温かい味噌汁の、鮮やかな温度差。下の子が「お魚さんが踊ってるよ!」と無邪気に笑いながら、白いご飯を頬張っていた。味覚というのは、その時の温度や光、そして隣にいる人の表情と一緒に記憶されるものだと思う。11月の函館を吹き抜ける、少しだけ鋭く、潮の香りが混じった冬の匂い。それが、口の中に残った魚の深い旨味と混ざり合って、忘れられない記憶の味になった。それは贅沢という言葉では足りない、ただお腹と心が満たされることの、純粋で根源的な喜びだった。
午後4時。外の世界はもう、深い群青色の闇に飲み込まれ始めている。窓の外に広がる函館の街の灯りが、ひとつ、またひとつと、まるで星が降りてきたかのように点り始める。部屋の中を照らす暖色の照明と、外に広がる冷たいブルーのコントラスト。その境界線に立っていると、自分がどこにいるのか、一瞬だけ分からなくなるような心地よい眩暈に襲われた。けれど、隣で眠そうに目をこすっている上の子の、小さな手の温もりを感じて、すぐに思い出した。ここは今、私たちが一緒に呼吸をしている場所なのだと。光と影が交差する静かな時間の中で、家族の輪郭が柔らかく、温かくぼやけていく。
床に転がった、片方だけの小さな靴下。その隣に、子供がクレヨンで描いた、意味の分からない落書きのメモ。洗練されたfav HAKODATEのモダンなインテリアの中に、あえて混ざり込んだ「生活の跡」。それがなんだか、とても正解な気がした。完璧に整えられたショールームのような空間よりも、少しだけ乱れた空間の方が、私たちは人間らしく、素直にいられる。ヘラルボニーの自由な線が描かれた壁紙が、そんな私たちの不完全さを優しく肯定してくれているように見えた。整理整頓しなくていい、という究極の贅沢。それは、日常を脱ぎ捨てた旅でしか味わえない、最高の解放感だった。
最後は、みんなで一つの大きなベッドに潜り込んだ。子供たちの小さな体温が、左右からじわりと伝わってくる。厚手の毛布の心地よい重みが、抱擁のような圧迫感となって、空っぽだった心を満たしていく。誰が誰の足を蹴ったのか、誰が誰の腕を掴んでいるのか、もう分からない。ただ、静かな呼吸の音が重なり合い、部屋全体がひとつの大きな生き物のように、穏やかに脈打っていた。明日になればまた、賑やかで愛おしい混沌が始まる。けれど、今はただ、この深い静寂の中に身を任せていたい。

夜の函館の静けさが、窓の外で深く、濃く、降り積もっていた。

  • 子供用の備品が充実しているので、荷物を最小限にして、その分、家族で街を歩く時間を贅沢に増やしてみてください。
  • 朝市へ向かう道すがら、11月の澄んだ空気の中で、子供と一緒に「冬の匂い」を探す散歩を楽しんでください。