← 戻る AMANE RESORT GAHAMA

肩と肩のあいだが、ゆっくり埋まっていく距離

潔い白に、外の世界の輪郭を脱ぎ捨てる

フロントの磨き上げられた床に、スーツケースのキャスターが転がる乾いた音が鋭く響いていた。別府上人ヶ浜温泉ホテルアマネリゾート ガハマのロビーに足を踏み入れたとき、まず肌に触れたのは、すべてを暴き出すような潔い白さと、かすかに漂うシトラスの清涼な香りだった。天井から降り注ぐ無機質で純粋な光が、私たちのあいだにある、まだ名前のつかない微妙な距離感を鮮明に映し出している気がする。丁寧すぎる言葉を使い、適切な間隔を空けて歩く。それは、外の世界で私たちが身に着けていた「正しい関係」という名の、窮屈な制服のようなものだった。もしかしたら、私たちはこの旅に、正解を求めすぎていたのかもしれない。チェックインを済ませ、手渡されたルームキーの冷たさが手のひらに残っていた。その冷たさは、心地よい緊張感であると同時に、これから始まる静寂への小さな不安でもあった。

静寂へと溶け込む、緩やかな歩幅の廊下

ロビーを離れ、客室へと続く廊下に入った瞬間、世界からふっと喧騒が消えた。足元に広がる厚いカーペットが、私たちの歩幅と、それまで抱えていた心のざわつきを丁寧に飲み込んでいく。ロビーの鋭い光はここでは柔らかいフィルターを通したような、淡い琥珀色の色調に変わり、空間全体が深い安らぎに満ちていた。一歩進むごとに、肩の力がじわりと抜けていくのがわかる。隣を歩く君の呼吸が、さっきよりも少しだけ深く、ゆっくりになっていることに気づいた。目的地まであと数メートル。その短い距離のなかで、私たちはもう、外の世界のテンポに合わせて歩く必要がないことを、本能的に理解し始めていた。光が屈折し、色が混ざり合うように、私たちの境界線も少しずつ曖昧に溶け合っていく感覚があった。

黄金色の繭に抱かれ、ただ二人で在る贅沢

ドアを開けた瞬間、ふわりと芳醇な檜の香りが鼻をくすぐった。ラグジュアリールームを満たしていたのは、夕暮れ前の、熟した果実のような濃い黄金色の光だった。誰にも邪魔されない、完全な私的な領域。私たちは、約されていたわけでもないのに、同時に深く、長い息を吐き出した。「やっと、辿り着いたね」と君が小さく呟く。その声が、心地よい静寂に溶けていった。

プライベートサウナから漏れる蒸気の白いしずくが、火照った肌に触れては消えていく。その熱い温度が、強張っていた心の結び目をゆっくりと解いてくれるようだった。その後、お湯に身を沈めると、心地よい水圧が体を包み込み、自分という輪郭がゆっくりと溶け出していく。しばらくして、私たちはそれぞれ好きな本を手に取り、ベッドの端に腰掛けた。読み上げる声はない。ただ、ページをめくる乾いた音と、時折重なる衣擦れの音だけが、AMANE RESORT GAHAMAの静謐な空気を心地よく彩っている。そんなとき、君が不意に栞を落とした。同時にそれを拾おうとして、指先が触れ合った。ほんの一瞬の、静電気のような刺激。私たちは顔を見合わせて、どちらからともなく小さく笑った。その笑い声が、部屋の温度をさらに心地よく上げてくれた気がする。ふかふかのデュベの重みが、今の私たちにはちょうどいい。足りないものを埋めるのではなく、今ここにある静けさを、ただ一緒に味わうこと。それが、この場所で私たちが最初に見つけた、最高の贅沢だった。

紺青の海と、言葉を越えて重なる視線

窓辺に立つと、目の前には別府の海がどこまでも広がっていた。10月の空気はひんやりとしていて、頬を撫でる風に秋の気配が混ざっている。太陽がゆっくりと水平線に近づき、光がガラスを通り抜けて、部屋のなかに七色のプリズムを描き出していた。海は、低い周波数のハム音のような心地よいリズムで、絶えずさざ波を繰り返している。その単調な音が、かえって私たちの心を凪の状態にしてくれる。私たちは言葉を交わさず、ただ同じ方向を見つめていた。もしかしたら、言葉にしないことで、より深く繋がっているのかもしれない。世界がゆっくりと深い紺色に染まっていくなかで、隣にいる君の体温だけが、確かな現実として伝わってきた。私たちは、この光の屈折のなかで、ようやく自分たちの本当の歩幅を見つけた気がした。

指先に残る湯の温もりと、隣にある静かな呼吸。

  • 10月の夕暮れ、窓辺で温かい飲み物を手に、海の色が深い紺に染まるまでただ眺めてみてください。
  • ラグジュアリールームの静寂の中で、あえて本を交換し、相手が心惹かれた一行を探ってみるのも贅沢な時間です。