← 戻る AMANE RESORT GAHAMA

ぬるいお茶と、誰かが笑ったあとの静寂

静寂の青と、喧騒の白

裸足で踏みしめたフロアのタイルが、予想していたよりもずっと冷たく、心地よかった。別府上人ヶ浜温泉ホテルアマネリゾート ガハマの扉を開けた瞬間、私の視界に飛び込んできたのは、計算し尽くされた「青い静寂」だったと思う。窓の外に広がる11月の海は、冷たいガラス越しに見ていても、その凍てつくような質感が肌に伝わってくる。私は、部屋の隅にあるサイドテーブルの滑らかな曲線や、厚手のカーテンが床に触れるかすかな衣擦れの音に意識を向けた。すべてが完璧に整いすぎている空間に、私たちの雑多な荷物が散らばっていく。その不調和さが、かえって私を安心させた。もしかしたら、この完璧な空白は、私たちが心地よく崩れるために用意されていたのかもしれない。潮の香りがかすかに混じる空気の中で、私はただ、静かに呼吸を整えていた。

信じられないと思うけど、私たちはチェックインの10分前になって、完全に道を間違えていた。結果的に、予定していたルートとは全く違う迷路のような路地裏をさまよったけれど、それが正解だった気がする。部屋に入った瞬間、誰が一番にベッドにダイブするかという、大人のすることとは思えない賭けが始まった。100平米を超える開放的なメゾネットルームの空間に、私たちの笑い声が激しく反響して、まるで巨大な楽器の中に閉じ込められたみたいだった。っていうか、あのベッドの跳ね返り具合、控えめに言って最高だった。計画通りにいかないことばかりの旅だったけれど、この部屋の圧倒的な開放感に触れたとき、悩みなんて全部どうでもよくなった。ただ、この心地よい混乱を、このまま永遠に続けていたいと思っただけだ。

舌先の記憶と、心の温度

舌の上に残ったのは、地元の食材が持つ、飾り気のない濃い味だった。温かい料理から立ち上がる真っ白な湯気が、冷えた指先を優しくかすめていく。私は、お皿の縁に付いたソースの滴が、重力に従ってゆっくりと形を変え、滑り落ちる様子をぼうっと眺めていた。味覚というものは、その時の心の湿度に左右される。11月の別府の、少し湿った潮風を感じながらいただく食事は、身体の奥底にある、自分でも気づかなかった空洞を静かに埋めてくれる感覚があった。素材の味がそのままダイレクトに伝わってくる。それは、誰かに合わせて自分を調整しなくていい、究極に贅沢な時間だった。ただ静かに、目の前の味と対峙する。それだけで、十分すぎるほど満たされていた。

正直、料理の味よりも、あの時の会話のテンポが忘れられない。クリスタルグラスがぶつかる高い音と、誰かが放った適当な冗談への鋭いツッコミ。琥珀色のワインが喉を通る時の、心地よい熱量。私たちは、最近の仕事の愚痴や、誰にも言えない小さな失敗について、まるで水面に広がる波紋みたいに、次から次へと話題を広げていった。照明が落とされたバーの空間が、私たちの本音をうまく抽出してくれるフィルターになっていたのかもしれない。美味しいのはもちろんなんだけど、それ以上に「ここにいていい」という絶対的な肯定感。誰かが笑ったあとに訪れる、ふっとした心地よい静寂。そういう、名前のない時間が一番のご馳走だったと思う。

私たちが唯一同意したこと

私たちは旅の間、ほとんどのことについて意見が合わなかった。どのルートで歩くか、何時に起きるか、どの紅葉が一番綺麗か。けれど、別府上人ヶ浜温泉ホテルアマネリゾート ガハマのプライベートサウナから出たあと、冷たい水に身を浸し、そのままテラスの椅子に深く沈み込んだときだけは、全員が同時に黙り込んだ。目の前に広がる深い紺色の海と、遠くで宝石のように瞬く街の灯り。火照った肌に、11月の夜風が鋭く、けれど心地よく触れる。私たちは、自分たちを繋ぎ止めていた表面張力がふっとほどけて、ただの個体に戻ったような感覚を共有していた。贅沢な場所に来たからではなく、ただ、心地よい温度の中にいたから。その瞬間だけは、誰一人として言葉を必要としなかった。ただそこに存在していることが、最高の贅沢だと、全員が同時に気づいたのだと思う。

夜の海に、遠い船の灯りがひとつ、静かに揺れていた。

  • 11月の別府は想像以上に冷えるので、厚手のルームウェアを準備して、サウナ後の温度差を全力で楽しんでほしい。
  • 予定を詰め込まずに、あえて「何もしない時間」をスケジュールに組み込むことで、このホテルの本当の価値が見えてくるはず。