← 戻る Grand Mercure Beppu Bay Resort & Spa

ぬるくなったミルクと、窓の外の深い青

ぬるくなったミルクと、窓の外の深い青

黄金色の光と、賑やかな朝のシンフォニー

午前7時のダイニングは、まだ意識の半分が夢の中にいる大人たちの深い溜息と、すでにフルスロットルで覚醒した子供たちの弾けるような笑い声が心地よく混ざり合っている。プラスチックのフォークが皿に当たるカチャカチャという乾いた音が、まるで旅の始まりを告げる軽快なリズムのように空間を埋めていた。グランドメルキュール別府ベイリゾート&スパの朝食ビュッフェは、家族にとってある種の「幸福な戦場」だ。上の子が「見て、あそこに大きなイチゴがある!」と指差した方向へ、下の子が全力で駆け出していく。それを追いかける親たちの足取りは重いけれど、不思議と不快ではない。むしろ、この騒々しさこそが旅の醍醐味なのだと感じる。

温かい卵料理から立ち上る真っ白な湯気がメガネを曇らせ、ふわりとバターの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。私は、少しだけ温度が下がったコーヒーの苦味を啜りながら、その光景を静かに眺めていた。子供たちが選んだ色とりどりのフルーツや、小さくカットされたパンが皿の上に山のように盛られている。彼らにとっての旅の正解は、きっと豪華な設備や完璧な行程ではなく、「自分の好きなものを、好きなだけ選べる」という小さな自由にあるのだろう。窓の外には、3月の淡い光を反射して、凪いだ別府湾の深い青が静かに広がっている。外の静寂と、目の前の喧騒。その鮮やかな対比が、「いま、ここに家族全員でいる」という実感を、肌に心地よい温度で伝えてくれた。

湯煙の街で、不器用に分かち合ったおむすび

ホテルを出て街へ踏み出すと、空気はしっとりと湿り、どこからかかすかに硫黄の匂いが漂ってくる。別府という街は、地面の下で巨大な生き物がずっと呼吸しているような、奇妙で力強い生気に満ちていた。ハーモニーランドへ向かう道すがら、緻密に練っていたはずのスケジュールは早々に崩壊した。上の子が「あっちに不思議な形の石がある」と言い出し、下の子は歩くのをやめて道端の小さな水溜まりをじっと見つめ始めたからだ。結局、私たちはガイドブックに載っている名所をいくつも通り過ぎ、名前も知らない小さな広場のベンチに腰を下ろした。

そこで食べたのは、コンビニで急いで買ったシンプルなおむすびだった。冷たい海風が頬をなで、指先が少しだけかじかむ中、アルミホイルから出したばかりのご飯は、驚くほど素朴で、だからこそ記憶に深く刻まれる味がした。「お父さんの分、ちょっとだけちょうだい」と笑う子供たちの口の周りには、白い米粒がちょこんとついている。大人が考える「効率的な観光」なんて、この街に立ち込める幻想的な湯煙の前では、何の意味もなさない。予定通りにいかないことは、旅における失敗ではなく、むしろ新しい発見への入り口なのだ。子供たちの予測不能な歩幅に合わせて歩くとき、私たちは「親」という役割を脱ぎ捨て、ただ一緒に迷子になる旅人になれた。そんな不器用なチームワークが、たまらなく愛おしい。3月の風はまだ冷たいけれど、隣で笑う子供たちの体温が、厚いコート越しにじんわりと伝わってきた。

琥珀色の静寂と、深夜のとり天の儀式

部屋に戻ると、Family Superior Roomのゆとりある広さが、ようやくその真価を発揮し始めた。広い空間には、子供たちが脱ぎ散らかした靴下と、どこから拾ってきたのかわからない小さな小石が点在している。もともとは「大人の時間も大切に、静かに過ごそう」と決めていたはずなのに、気づけばそこは子供たちの自由な領土になっていた。畳の上に大の字になって寝転ぶ彼らの規則正しい呼吸音が、部屋の隅々までゆっくりと波紋のように広がっていく。温泉で芯まで温まった体は心地よく重く、心地よい疲労感が家族を包み込んでいた。

子供たちが深い眠りに落ち、部屋が深い静寂に包まれた頃、私たちはキッチンテーブルに集まり、地元の店で買ってきたとり天を広げた。冷めていても美味しい、衣の香ばしさと鶏肉のジューシーな旨味。黄金色のとり天を頬張り、冷えたビールを一口飲み干すと、今日一日の「戦果」について自然と話し合いが始まる。誰が一番大きな声を出し、誰が一番面白い顔をして驚いたか。この静寂は、昼間の激しい騒がしさがなければ成立しない。空っぽの空間があるからこそ、そこに詰まっていた記憶がゆっくりと形を成していく。ふと窓の外を見ると、街の灯りが宝石のように海に溶け込んでいた。家族旅行の本当の価値は、目的地にたどり着くことではなく、こうした「嵐の後の静けさ」を共有することにあるのかもしれない。裸足で踏んだフローリングのひんやりとした感覚が、心地よく足裏に馴染む。明日もまた、きっと計画通りにはいかないだろう。けれど、その不確かさこそが、私たちがこの旅に求めていた最高の贅沢だったのだと、深夜の静寂の中で静かに納得した。

パジャマの裾をぎゅっと掴んで眠る子供の指先が、とても温かかった。

  • 別府湾の穏やかな海を眺めながら、あえて時計を見ずに何もしない時間を一時間だけ作ってみること。
  • 地元の市場を散策し、子供が「不思議だ」と興味を持った正体不明の地元の食材を一つだけ買ってみること。