← 戻る リッチモンドホテル博多駅前

冷えた缶コーヒーと、ほどけない靴紐

冷えた缶コーヒーと、ほどけない靴紐

予想を心地よく裏切った、5つの瞬間

「最後に着いたやつが奢る」という、大人の子供じみた賭け
博多駅の改札を抜けた瞬間、肌にまとわりつくような9月の濃密な湿気が僕らを包み込んだ。「うわ、すごい蒸気だ」と誰かが声を漏らした直後、リッチモンドホテル博多駅前までのわずかな道のりを舞台に、誰が一番最後に着くかという、どうでもいい賭けが始まった。アスファルトに響くスーツケースの車輪の乾いた快音と、わざと歩幅を狭めてもがく足音。結局、道端の鮮やかな看板に気を取られて全員がほぼ同時に到着したが、あの意味のない競争のおかげで、単なる移動が心躍る小さな冒険に変わった気がする。

白い羽の海に飲み込まれる、深夜の心地よい沈没
Standard Double Roomのドアを開け、吸い込まれるように飛び込んだデュベスタイルのベッド。シーツのひんやりとした滑らかな質感と、すぐに体温に馴染んでいく羽毛布団の柔らかさが、張り詰めていた神経をゆっくりと解いていく。深く沈み込むたびに、一日中歩き回った足の疲れが、真っ白な雲の海に溶け出していくような感覚に陥った。「明日行く場所、全部忘れていいかも」という甘い誘惑に負けそうになるほど、心地よい重力に身を任せる贅沢な時間がそこにはあった。

400の露店が織りなす、油と熱気の濃密な迷宮
放生会の喧騒に飛び込んだとき、鼻腔をくすぐったのは焦げた醤油の香ばしい匂いと、激しく弾ける揚げたての油の香りだった。人の波に押され、どこへ向かっているのかも分からぬまま、ただその熱狂的な温度に身を任せて歩く。途中で一人が「かっこいいところを見せてやる」と颯爽に歩き出したものの、不意に街灯の支柱に肩をぶつけ、鈍い音が響いた。その拍子に持っていた食べ物が少しだけこぼれ、僕らは5分間、ただそれだけのことについて腹を抱えて笑い転げた。完璧な計画よりも、こういう不格好な瞬間こそが、旅の記憶に深く刻まれる。

デスクの上に展開された、カオスな作戦会議
Deluxe Double Roomに備え付けられた広めのデスクに、色鮮やかなガイドマップとコンビニで買い込んだお菓子、そして三台のノートPCを雑多に並べた。白い蛍光灯の明るい光の下で、「次、どこ行く?」という問いに誰も正解を出せないまま、ただ地図の上を指でなぞる。本来は仕事をするための機能的な場所なのだろうが、僕らにとっては、旅の迷走を正当化するための最高に愉快な作戦本部になった。机の角に当たった肘の鈍い痛みさえも、この旅の「正解のなさ」を象徴しているようで、なんだか愛おしく感じられた。

朝7時、炊き立てのご飯が運ぶ静かな救い
ホテル内のレストランで迎えた朝。目の前に運ばれてきた炊き立てのご飯から立ち上がる、真っ白な湯気が視界をふんわりと遮る。一口頬張ると、お米の優しい甘みが舌の上にゆっくりと広がり、昨夜の祭りの喧騒と疲れが、内側から静かに書き換えられていく感覚があった。豪華なフルコースではないけれど、このシンプルで確かな温度がある食事が、僕らに「さて、今日はどうやって迷おうか」という活力をくれた。朝の静寂の中で、ただ食べることに集中する、何にも代えがたい贅沢な時間だった。

散らばった記憶が、一つの物語になる

エアコンの冷気が、火照った肌を静かに撫でていく。僕らの関係性は、おそらく、少しだけ編み目の粗いセーターのようなものだ。完璧に密閉されているわけではないけれど、その隙間から入ってくる不意な風が心地いい。リッチモンドホテル博多駅前という、清潔で静謐な空間が、僕らのバラバラなテンションを優しく包み込む大きな器になってくれていた。誰かが不機嫌になっても、誰かが盛大に寝坊しても、ここに戻ればまた同じリズムで笑い合える。そんな絶対的な安心感があるからこそ、僕らはもっと自由に、もっと大胆に迷子になれた。正解を求めない旅の心地よさを、僕らはこの場所で共有していたのだ。

窓の外で、福岡の街がゆっくりと藍色に染まっていくのを眺めていた。

  • 博多駅からホテルまでの道中、あえて路地裏に迷い込んで、地元の生活の匂いを肌で感じてみてほしい。
  • 客室にある靴べらや洋服ブラシを使い、出かける前の自分を丁寧に整える静かな時間を大切に。