← 戻る くったり温泉レイク・イン

朝の空気と、小さな手のひらの温度

朝の空気と、小さな手のひらの温度

五月の湖畔に溶け込んだ、家族の記憶を刻む五つの音

湿った土の匂いと、どこからか漂うバラの香りが鼻腔をくすぐります。新緑の中を駆け抜ける子供たちの弾む足音と、それに重なる木の葉のざわめきが、五月の冷涼な風に乗って届きました。この不規則なリズムに身を任せていると、都会で張り詰めていた心の結び目が、ゆっくりとほどけていくのが分かりました。

「あ!モンスターがいる!」という、鼓膜を震わせるような天真爛漫な叫び声。次郎が温泉の湯船で激しく水を跳ね上げ、私たちの浴衣をびしょ濡れにした瞬間です。お湯にプカプカと浮かぶ大きな丸太を指差して笑い合うとき、完璧な家族旅行なんて幻想だと気づき、むしろこの混沌とした賑やかさこそが旅の本当の輪郭なのだと感じました。

カチッ、という箸が陶器に触れる小さく乾いた音。朝の柔らかな光が差し込むレストランで、家族で蕎麦をすする静かな時間です。一番上の子が「美味しいね」と小さく呟いたとき、その声が心地よい余白を持って空間に広がりました。贅沢な献立よりも、この何気ない音の重なりこそが、今の私たちに最も必要な心の栄養だったのかもしれません。

湖の岸辺で聞こえる、低く静かな「シャー」という水の囁き。湯宿くったり温泉レイク・インの目の前に広がるくったり湖で、一羽の白鳥が静かに羽を休めていました。大人が黙ってその白い首の曲線を見つめている間、子供たちも不思議と静まり返ります。沈黙にも絹のような質感があることを、この深い静寂が教えてくれているようでした。

和風の廊下に響く、パジャマが床に擦れる「シュッ、シュッ」という規則的な音。眠い目をこすりながら、どこへ向かっているのかも分からず歩く子供たちの、おぼつかない足取りです。その不確かなリズムを後ろから追いかけながら、目的地に辿り着くことよりも、こうして誰かの歩幅に寄り添う時間こそが、旅の正体だったのではないかと思いました。

窓の外で揺れる新緑を眺めながら、子供たちの穏やかな寝息だけが部屋を満たしている。

  • お風呂に浮かぶ丸太を小さな船に見立てて遊ぶ時間を。大人はただ、その賑やかさを微笑んで眺めていればいい。
  • チェックアウト後、湖畔をゆっくり歩いてみてください。白鳥が運んでくる静寂が、心に心地よい隙間を作ってくれます。