← 戻る イマジン ホテル&リゾート函館

指先に残った、甘いジャムの記憶

指先に残った、甘いジャムの記憶

冷たい水のグラスの表面に、小さな水滴がいくつも集まって、ゆっくりとひとつの雫になって流れ落ちる。それを指でなぞったとき、指先が心地よく冷えて、ようやく意識が覚醒した。5月の函館の朝は、まだ冬の気配をかすかに孕んでいて、肌に触れる空気がひんやりと澄んでいる。家族旅行というものは、個人の旅とは違う速度で流れる。それは一人で静かに泳ぐことではなく、誰かと一緒に大きな、そして時に予測不能な流れに身を任せることなのだと思う。

宝石のような朝食と、賑やかな家族の調べ

朝食会場に足を踏み入れると、そこには心地よい騒乱があった。子供たちが弾むように走り回り、食器が触れ合う高い音が、寄せては返す波のように重なり合っている。イマジン ホテル&リゾート函館のバイキングは、目移りするほどの選択肢に溢れ、どこから手をつければいいのか迷う贅沢がある。けれど、子供たちの視線はすでに定まっていた。「見て!宝石みたい!」と歓声を上げた彼らが器に山盛りにして持ってきたイクラは、口の中で小さな泡のように弾け、濃厚な海の滋味が広がった。隣では、上の子が「このパン、雲みたいにふわふわだよ」と、焼き立ての塩パンを頬張っている。芳醇なバターの香りが鼻をくすぐり、大人の私たちはようやく、深く濃いコーヒーをゆっくりと啜った。子供たちを食事に集中させるのは、ある種のチーム作戦のようなものだ。誰かが飲み物を補充し、誰かがこぼれたジャムを素早く拭き取る。そんな不器用な連携があるからこそ、食卓には不思議な温かさが漂う。完璧なマナーなんて必要ない。ただ、目の前の料理に夢中になる子供たちの横顔を眺めているだけで、心は十分な充足感で満たされていた。

潮風に踊る軽食と、不完全な旅の彩り

ホテルから徒歩2分、熱帯植物園へと向かう道すがら、5月の新緑が眩しく目に飛び込んできた。藤の花がしだれ、バラの蕾が今にも弾けそうに膨らんでいる。そんな景色の中、私たちは地元で人気の軽食を手に、潮風が吹き抜けるベンチで短い休憩を取った。けれど、旅の記憶に深く刻まれるのは、洗練された味よりも、むしろ「想定外」の出来事の方だった。不意に吹いた強い風が、誰かが持っていたナプキンをひょいと攫っていき、それを追いかけて子供たちが笑いながら走り出した。その拍子に、持っていた飲み物が少しだけ服に跳ねた。「あぁ、もう!」とため息をつきそうになったが、子供たちの弾けるような笑い声を聞いていると、その汚れさえも、この旅に欠かせない正しい彩りに思えてきた。正解のルートを辿ることよりも、道端に咲く名もなき花に足を止めたり、風に翻弄されたりすること。そんな、制御できない流れに身を任せる時間こそが、家族の距離を少しだけ近づけてくれる。目的地に着くことよりも、そこに至るまでの、少しだけ乱雑で愛おしいプロセスにこそ、本当の旅があるのだと感じた。

蒼い静寂に溶ける、大人の秘密の時間

夜、オーシャンビューの「オーシャン」ルームに戻ると、窓の外には深い青に溶け込む海が広がっていた。気密性の高い窓の向こうで、潮騒が静かに呼吸している。子供たちが深い眠りに落ち、部屋に心地よい静寂が訪れたとき、私たちはひっそりと、地元で買ったお菓子と冷えた飲み物を並べた。畳のい草の清々しい香りと、ほのかに漂う温泉の匂い。裸足で踏んだ床の温度が、一日の疲れをゆっくりと吸い上げてくれる。子供たちが寝静まった後のこの時間は、親にとっての聖域のようなものだ。「やっと静かになったね」と小声で笑い合い、昼間の喧騒が嘘のように静まり返った空間で、ただ海の色だけが部屋の中に滲み込んでいる。私たちは、今日起きた小さな失敗や、子供たちが口にしたおかしな言葉について、低い声で語り合った。明日、あそこに行こうか、あるいは、もう一度あのお店に行こうか。計画を立て直すのではなく、ただ今の心地よさを共有する。そういう時間が、心の中にある空白を、ゆっくりと温かい液体で満たしていくような感覚がある。この部屋の静けさは、単なる不在ではなく、明日への期待を蓄えるための、贅沢な余白なのだと思う。

明日もまた、この心地よい混乱の中にいたいと思う。

  • 朝食の焼き立て塩パンは、ぜひ温かいうちに。バターの香りが心まで解かしてくれます。
  • ホテルからすぐの熱帯植物園で、5月の新緑と季節の花々に触れる、ゆっくりとした散歩を。