← 戻る プレミアホテル キャビンプレジデント函館

冷房の風に、祭りの匂いが混ざった夜

冷房の風に、祭りの匂いが混ざった夜

記憶を留める、一枚の紙と竹

うちわ。指先にわずかに刺さるような、竹の骨組みの粗い質感。表面の和紙には、屋台から漂う濃いソースの香りと、函館の港を吹き抜ける潮風の匂いが、薄く、けれど消えない記憶のように染み付いている。それを、プレミアホテル キャビンプレジデント函館のサイドテーブルに、そっと置いた。間接照明の淡い琥珀色の光に照らされて、うちわが落とす影が、ゆっくりと壁に伸びていく。祭りの喧騒の中で、誰かにぶつからないように、あるいはこの瞬間を逃さないようにと強く握りしめていた時の、手のひらのじっとりとした熱が、まだ指先に残っている気がして、私はしばらくその感触を反芻していた。

ほどよい温度と、静寂の心地よさ

「……やっぱり、ここに来て正解だったね」

君が、ふうっと大きなため息をついて、ベッドに体を預けた。シモンズ製のマットレスが、君の体重に合わせて静かに、けれど深く沈み込む。その微かな衣擦れの音が聞こえるほど、部屋は深い静寂に包まれていた。

「うん。外はあんなに人が多かったのに、ここだけ別の世界みたい」

私は、リファのシャワーヘッドから出る、きめ細やかなミストのようなお湯に包まれていた。肌を撫でる心地よい水圧が、祭りの熱気で張り詰めていた肩の力を、一枚ずつ丁寧に剥がしていく。お湯の温度がちょうどよくて、意識がゆっくりと、心地よくほどけていく。浴室に満ちた温かな蒸気が、心まで柔らかく解きほぐしていく感覚だった。

「ねえ、さっきの花火、どっちの色が好きだった?」

「うーん、わからない。でも、君が隣にいて、たまに肩が触れた時の温度の方が、記憶に残ってるかも」

君の少しだけ照れくさそうな、低めの声に、私は小さく笑った。ウェルカムドリンクのグラスを口にしたとき、予想以上の冷たさに指先がびくっと跳ねたけれど、その小さな驚きさえも、今は心地よいリズムの一部に感じられた。部屋に漂うアロマディフューザーの穏やかな香りが、私たちの間に流れる時間を、さらに緩やかに、そして濃密なものに変えていく。

熱を分かち合ったあとの、静かな余白

チェックアウトした後、あのうちわはきっと、ただの紙と竹の塊に戻るのかもしれない。けれど、今の私にとってそれは、二人で共有した「熱」の記録なのだと思う。盆踊りの太鼓の音が胸の奥で小さく振動し、人混みのなかで互いの呼吸を確かめ合った、あのもどかしいほどの近さ。それを、この部屋の冷たい空気が優しく包み込んでくれた。

ロフテーの快眠枕に深く顔を埋めると、世界から切り離されたような感覚に陥る。函館駅から歩いてわずか一分という、都市の鼓動が聞こえる中心にありながら、プレミアホテル キャビンプレジデント函館には、誰にも邪魔されない、深い静寂があった。窓の外に広がる函館の夜景は、宝石をぶちまけたようにきらめいているけれど、それを眺める私たちは、あえて言葉を交わさなかった。沈黙には質感がある。それは、無理に埋める必要のない、心地よい空白のようなものだ。

もしかすると、私たちはまだ、お互いの本当の歩幅を模索している最中なのかもしれない。けれど、この部屋の柔らかな照明と、肌に触れるリネンのさらさらとした感触が、私たちの間の緊張を、ゆっくりと安心感に変えてくれた気がする。足りないものがあるからこそ、それを埋めようとする時間が生まれる。その空白こそが、旅の本当の価値なのだと、今になって気づいた。

十三階のラウンジで、夜風に吹かれながら飲んだ一杯のカクテル。その氷の冷たさと、君の隣で感じた体温。その鮮やかなコントラストが、私の記憶の中で一つの旋律になって、静かに鳴り続けている。完璧な旅なんてないけれど、この不完全で、少しだけ不器用な夜があったことだけで、十分すぎるほどだと思えた。

窓の外で、遠くの街灯がひとつ、ふっと瞬いた。

  • ルーフトップバーで、夜景を眺めながら地元のワインをゆっくりと味わってみてほしい。
  • 朝、少し早起きして、ホテルから徒歩一分の函館朝市で、新鮮な海の香りに包まれる時間を。