← 戻る ホテルフォルツァ札幌駅前

冷たいプリンの味と、雨の音

禁欲の夜を溶かした、雨と甘い誘惑

6月の札幌は、しっとりと重い空気が街全体を淡い水色に染めていた。JR札幌駅南口からホテルフォルツァ札幌駅前へと向かうわずか4分の道のり。濡れた靴底がアスファルトに張り付く粘り気のある音と、肌にまとわりつく冷気が、旅の心地よい疲労感をじわりと呼び覚ます。もともとは「ダイエット中だから夜食は厳禁」という、旅の始まりに交わした、今となっては笑えるほどの誓いがあったはずだ。けれど、コンビニの店先に並ぶ北海道限定スイーツたちの、宝石のように鮮やかなパッケージを前にして、その誓いは春の雪のようにあっけなく溶け出した。誰が最初に「一口だけなら」と折れるか、私たちは密かに賭けていたのかもしれない。結局、一番に白旗を上げたのは、普段は誰よりも強気な彼だった。ビニール袋の中でカサカサと鳴る濃厚なプリンと、地元の塩気が効いたポテトチップス。それを大切そうに抱えて部屋に戻る足取りは、秘密の任務を完遂したエージェントのような、密かな高揚感と誇らしさに満ちていた。

贅沢なベッドの上で、不格好な本音を分かち合う

「ねえ、さっきの紫陽花スポット、完全に方向間違えてたよね。おかげで靴がびしょびしょ」

コンフォートダブルの部屋に広がる、カッシーナ・イクスシーの洗練されたインテリア。そのモダンな静寂の中で、私たちはシモンズ製ベッドの心地よい弾力に身を任せて、円を描くように座った。誰かがコンビニの袋をガサリと開けると、甘いカスタードの香りがふわりと漂い、冷たい空気を一瞬で塗り替えていく。

「いいじゃん、迷ったおかげで、誰もいない路地裏の綺麗な花が見つかったし。まあ、結果的に迷子だったけど」

「それ、ただの方向音痴の言い訳でしょ。信じられないんだけど」

口の中でとろけるプリンの濃厚な甘さと、対照的に塩気の強いチップスの刺激。交互にやってくる味の波に、私たちは心地よく翻弄されていた。ふと、彼がチップスを口に運ぼうとした瞬間、指先から滑り落ちた一枚が、真っ白なシーツの上にひらりと舞い降りた。そのあまりに間抜けた光景に、私たちは同時に吹き出した。笑いすぎて、お腹のあたりがじんわりと熱くなる。誰かが誰かを揶揄し、それにまた誰かが被せる。そんな、中学生のような幼稚なやり取りが、この洗練された空間では最高の正解なのだと感じた。結局、私たちは旅の計画通りに動けたことよりも、計画が崩れた瞬間の、この不格好な一体感に惹かれていたのかもしれない。本当は、完璧な旅なんて、誰にとっても退屈なはずだ。

満たされた胃袋と、心地よい静寂の余白

食べ終えた後の空き容器が、テーブルの上に不揃いに並んでいる。会話のテンポがゆっくりになり、部屋の中にはエアコンの控えめな動作音と、遠くで聞こえる雨音だけが残った。窓の外ではまだ雨が降り続き、ガラス越しに見える札幌の夜景は、滲んだ光の粒となって、誰かが描きかけの水彩画のように揺れている。ホテルフォルツァ札幌駅前がコンセプトに掲げる「雪や氷の煌めき」を体現したような、澄んだ空気感が部屋を満たしていた。

私たちはもう、言葉を交わす必要なんてなかった。ただ、同じ空間にいて、同じ温度の空気を吸っている。それだけで十分だという安心感が、重い布団のように私たちを包み込んでいた。孤独というものは、一人でいることではなく、誰と一緒にいても埋まらない隙間があることだという気がする。けれど今、この部屋にあるのは、心地よい空白だ。欠けている部分があるからこそ、そこに相手の存在がちょうどよくはまり込む。そんな、パズルのピースのような静寂。私たちはゆっくりと目を閉じ、明日また、あの濡れた街へ繰り出すためのエネルギーを、静かに蓄えていった。

雨の匂いが消え、深い眠りの心地よさだけが部屋に満ちていた。

  • セイコーマートの北海道限定プリン。深夜の罪悪感を至福の幸福感に変えてくれる。
  • 濡れた靴を乾かすためのタオルを多めに借りること。翌朝の足取りが驚くほど軽くなる。