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冷たい空気と、小さな手のひらの温度

冷たい空気と、小さな手のひらの温度

黄金色の朝陽と、小さなフォークが奏でる不揃いなリズム

エレベーターのボタンに触れた瞬間、指先に伝わったのは、ひんやりとした金属の滑らかさと、心地よい緊張感だった。JR札幌駅の北口から歩いてわずか1分。あまりに短い距離に、まだ旅が始まったばかりだという実感が追いつかない。ロビーに足を踏み入れると、そこには外の静寂とは異なる、まるで現代美術館のような、光が軽やかに舞い踊る開放的な空間が広がっていた。地下1階にある「エイト・ライスフィールド・カフェ」へ降りると、深く焙煎されたコーヒーの香ばしい香りが、まだ半分眠っている私の意識をゆっくりと揺り起こしていく。

テーブルを囲む家族の風景は、いつも通り少しだけ騒がしい。下の子が、見たこともない形の瑞々しいフルーツに興味津々で、小さなフォークを何度も滑らせている。そのもどかしそうな、けれど好奇心に満ちた表情を眺めていると、ふと気づく。子供が何かを発見して声を上げる瞬間と、大人がそれに気づくまでの間には、わずかな時間の空白がある。その心地よいラグこそが、家族で旅をすることの正体なのかもしれない。私はゆっくりとブラックコーヒーを啜り、喉を通る熱い感覚に意識を集中させる。老大はもう自分のペースで香ばしいパンを頬張り、明日の予定について熱心に語り始めた。完璧な調和なんてないけれど、この不揃いなリズムが、今の私たちにはちょうどいい。開放的な空間に溶け込む笑い声が、心地よい周波数のように耳に届いていた。

街の薫りと、口いっぱいに広がる黄金色の記憶

京急 EXホテル 札幌を出て大通公園へ向かう道すがら、7月の札幌の空気は、肌に触れると凛としていて、どこか洗いたてのリネンのように清々しい。時計台の前を通り過ぎる際、ふと風に乗ってやってきたのは、食欲を激しく刺激する醤油とバターの焦げた香りだった。歩道沿いで売られていた焼きとうもろこし。それを買うまで、私たちは「今日はもっと計画的に回ろう」と話し合っていたはずなのに、気づけば全員がその抗えない香りに惹きつけられていた。

下の子が、口の周りを黄色いバターで汚しながら、夢中でとうもろこしを頬張っている。その無邪気な様子を見て、私はふと思う。旅の記憶として鮮明に残るのは、ガイドブックに載っていた名所よりも、こういう「予定外の汚れ」の方なのだと。老大が「服が汚れるよ」と注意しながらも、自分も一口欲しそうに視線を送っている。そんなやり取りを眺めていると、またあの時間的なズレを感じる。子供たちが今この瞬間の快楽に没頭している一方で、大人はそれをどう記録し、どう管理するかという未来の話をしている。けれど、とうもろこしの濃厚な甘みが口いっぱいに広がったとき、私もまた、ただの「今」という瞬間に戻ることができた。歩道に落ちたとうもろこしの皮。行き交う人々の、軽やかな足音。特別なことは何もないけれど、ただ一緒に歩いているという事実が、心地よい重みを持ってそこにあった。

深夜の静寂と、二人だけで分かち合う贅沢な甘み

部屋に戻ってきたとき、私たちは心地よい疲労感に包まれていた。フォースルームのゆとりある空間に、大きな荷物と、脱ぎ捨てられた靴が散らばっている。その乱雑さが、かえってこの場所を「自分たちの居場所」に変えてくれた気がした。子供たちが、お風呂上がりの心地よい眠りに誘われ、ベッドの中で小さく丸まっている。シーツのパリッとした清潔な感触が、一日の緊張をゆっくりと解いていく。部屋の隅に漂う、かすかな石鹸の香りが心を落ち着かせてくれた。

子供たちが完全に眠りに落ちた後、夫婦でひっそりとコンビニで買った北海道産のメロンを切り分ける。深夜、部屋の中には冷蔵庫の小さな唸り音と、果物を切るナイフの規則正しい音だけが響いている。昼間の喧騒が嘘のように、静寂が確かなテクスチャを持ってそこにあった。メロンの濃厚な甘みが舌の上でとろけるとき、今日一日の出来事が、ゆっくりと整理されていく。子供たちが叫んでいたこと、迷い込んだ路地、そして、不意に見つけた名もなき綺麗な花。それらすべてが、一つの物語としてまとまっていく感覚。

ふと隣を見ると、パートナーが小さく笑っていた。言葉にしなくても、同じことを考えていたのかもしれない。私たちは、あえて多くを語らずに、ただこの静かな時間を共有する。明日になればまた、あの賑やかなラグの中に戻るのだろう。けれど、この深夜の静寂があるからこそ、私たちはまた明日、子供たちの不揃いな歩幅に合わせることができる。部屋の隅で、子供たちが静かな寝息を立てている。その規則正しいリズムが、今の私にとって、世界で一番信頼できる音楽のように感じられた。

窓の外では、札幌の夜風が静かに街を撫でていた。

  • 札幌駅北口から徒歩1分という近さを活かし、チェックイン前に駅前で地元の限定スイーツを買い込んでみるのがおすすめ。
  • エイト・ライスフィールド・カフェの朝食では、地元の新鮮な食材をゆっくりと味わい、家族それぞれの「好き」を再発見してほしい。