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コートに積もった雪が消える音

コートに積もった雪が消える音

鼻先を刺すような、氷の針が舞う鋭い冷気。駅の改札を出た瞬間、誰かが「ここから1分で着くはず」と自信満々に豪語した。結果、私たちは真っ白な世界で3分間迷走した。吹雪の中で独り低く唸っている自販機の機械的な音だけが、私たちの絶望的な方向音痴をあざ笑っているみたいだった。この短い距離で迷子になれるのは、きっとこの街が仕掛けたいたずらか、私たちのチームワークが壊滅的なだけなのだろう。



眼鏡を真っ白に染める、濃密で熱い湯気。スープカレーの刺激的なスパイスの香りが鼻を抜け、凍えて感覚を失っていた指先までじわりと熱が戻ってくる。隣で誰かが「辛すぎて無理!」と悶絶している声が、心地よいBGMのように響く。根菜の凝縮された甘みが口の中で弾けるたびに、体温が1度ずつ、ゆっくりと上昇していく。こういう単純で原始的な快楽こそが、旅の正解な気がする。


「1分で着くホテルを3分で逃す才能があるね」という、心まで凍りつきそうな冷徹なツッコミ。私たちは互いのナビ能力を激しく疑い合いながら、ようやく京急 EXホテル 札幌の開放的なロビーに滑り込んだ。外の白銀の静寂とは対照的な、温もりに満ちた空間。冷え切った顔で、でもどこか満足げに笑い合う私たちの姿は、客観的に見ればかなり滑稽だったはずだ。


ナイロンのジャケットが擦れる、あの独特のシャカシャカという乾いた音。全員が厚いダウンを着込みすぎて、もはや人間というよりは、歩く防寒具の集団だった。「ミシュランマンの集会みたい」と誰かが呟いた瞬間、凍った空気が弾けるように全員で爆笑する。動くたびに鳴り響く騒がしい音。けれど、その不格好なリズムが、一人ではないことを教えてくれるから不思議と心地よかった。


午前7時のラウンジ。まだ半分眠っている意識の中で、コーヒーマシンの低い唸りだけが静かに響いている。窓から差し込む淡い冬の光が、もともと静謐な空間にさらなる奥行きを与えていた。世界がまだ深い眠りから覚めない準備中で、私たちだけが先に特等席を陣取ったような、不思議な特権感。深く焙煎された苦い香りが、ゆっくりと脳の回路を覚醒させていく。


部屋に入り、裸足で踏みしめたカーペットの、しっとりと柔らかい感触。モデレートダブルAの心地よい空間が、外の猛吹雪を完全に遮断してくれる。ベッドにダイブした瞬間の、深く、包み込まれるような沈み込み方。ここにあるのは、外界からの完璧な遮断と、絶対的な安心感。誰にも邪魔されずに、ただ横になって白い天井を眺める時間こそが、この旅で一番の贅沢だった。


ロビーのギャラリーで、見たこともない前衛的な作品を前にして、「これ、掃除し忘れた跡じゃない?」と小声で囁き合った。正解はわからないし、おそらく大外れだろうけれど、そのくだらなさが最高に贅沢だった。真面目に鑑賞するよりも、一緒にバカなことを言い合う方が、ずっと鮮烈に作品の記憶に刻まれる。そういう些細な時間こそが、旅の質を決定づけるのだと思う。


街を歩き回って、心地よい疲労感と共に戻ってきた場所。重いドアを閉めた瞬間に、外の喧騒と刺すような寒さがふっと消える。部屋の適温が肌に馴染み、強張っていた肩の力がゆっくりと抜けていく。私たちはまた、明日も迷うことに決めた。正解のルートなんて、後から調べればいい。今はただ、この温もりに身を任せて、心地よい眠りに落ちていたい。

白い息が、部屋の柔らかな灯りに溶けて消えていった。

  • ホテルの近くで、あえて遠回りして大通公園まで歩いてみて。雪を踏む音が最高に心地いいから。
  • ラウンジで、あえて何もせずにぼーっとする時間を30分だけ作ってみて。最高の贅沢になるから。