← 戻る 心のリゾート海の別邸ふる川

コンビニの袋が、静まり返った部屋に響いた夜

コンビニの袋が、静まり返った部屋に響いた夜

真夜中の共犯者と、抗えない空腹の誘惑

鼻腔を鋭く刺すような、冬の白老ならではの冷気。吐き出す息は瞬時に白く濁り、視界がわずかに狭くなる。私たちは密かに賭けていた。この極寒の静寂の中、誰が一番先に「やっぱり何か食べたい」と白旗を上げるか。結果的に、敗北したのは私たち全員だった。心のリゾート海の別邸ふる川という、洗練された静謐な空間に身を置きながら、私たちの本能は、どういうわけかコンビニの揚げ物コーナーという世俗的な快楽へと強く惹きつけられていた。指先に食い込むビニール袋の取っ手の感触が、心地よい緊張感となって伝わってくる。雪を踏みしめるたびに響く「ギュッ、ギュッ」という乾いた音が、深夜の街に不自然なほど鮮明にこだましていた。豪華な夕食を堪能し、心もお腹も満たされていたはずなのに、この静寂を何かで埋めたいという、正体のわからない飢餓感があったのかもしれない。部屋に戻るまでの短い道のりで、私たちは何度も足を止め、降り積もった雪の純白さに、自分たちの不格好な格好を重ね合わせて、声を殺して笑い合った。

揚げ物の香りと、夜更かしの言い訳

「ねえ、本当にこれ全部食べるつもり? あなたの胃袋はどういう構造になってるのよ」

畳の上に乱雑に広げられたコンビニ袋。誰が言い出したのか、私たちは正座という礼儀をあっさりと捨て、ベッドの端に腰掛けた。もはやリゾートホテルの優雅さなんて、どこか遠い国の物語のように感じられる。もそもそと袋から取り出された唐揚げから、濃い醤油と油の香りが立ち上がり、部屋の空気を一気に日常の色に染めていく。

「いいじゃん。だって、初詣で凍え死にそうだったんだから、これは正当な生存報酬だよ」

「生存報酬っていうか、ただの食い意地でしょ。っていうか、さっきの神社でのルートミス、あれ誰のせいだと思ってんの?」

「いや、地図を握りしめていたのは君だったはずだけど」

「あー、もういい! 誰が正しかったかなんて、この唐揚げの温度の前では全く意味ないから!」

口の中に広がる、濃いめの味付けとじゅわっと溢れる油の香り。それが、冷え切った身体の芯にじわりと染み込んでいく。私たちは、計画通りにいかなかった一日の出来事を、一つひとつ丁寧に、そして意地悪く掘り起こしては笑い転げた。白老の冬の厳しさに翻弄されたこと、梅の蕾がまだ硬いことを確認して肩をすくめたこと。正解のルートを辿るよりも、迷い込んだ路地裏で見た名もなき雪景色の方が、ずっと深く記憶に焼き付いている気がする。誰かがポテトチップスを噛む乾いた音が、部屋の中に心地よいリズムを作っていた。完璧な旅なんて、本当は退屈なだけなのかもしれない。

満ち足りた胃袋と、深い海の静寂

袋の中身が空になり、激しかった会話のテンポも、潮が引くようにゆっくりと静まっていく。部屋の温度は適切に保たれているはずなのに、不思議と肌寒さが心地よく感じられた。窓の外には、太平洋の深い闇が、底知れない厚みを持って広がっている。波の音が、厚い壁を通り抜けてかすかに聞こえてくる。それは、遠くで巨大な生き物が低く唸っているような、あるいは地球そのものが深く呼吸をしているような、そんな質感を持った音だった。私たちはもう、何も話さなくなった。ただ、それぞれが心地よい方向を向いて、ぼんやりと天井や闇に溶ける海を眺めている。この空白は、寂しさとは程遠い。むしろ、お互いの存在がそこに在ることを、言葉を介さずに確認し合っているような、密度の高い静寂だった。温泉で温まった身体を、心のリゾート海の別邸ふる川の柔らかな布団に潜り込ませる直前の、あの意識がゆっくりと溶けていく感覚。何もないことが、これほどまでに贅沢に感じられるなんて。もしかしたら、私たちはこの「空白」という名の贅沢を味わうために、わざわざ遠くまで来たのかもしれない。

窓の外では、また静かに、世界を白く塗り潰す雪が舞い始めていた。

  • 地元のコンビニで手に入る、北海道限定の濃厚なミルクプリン
  • 凍えた身体の芯から温めてくれる、濃厚な缶のコーンスープ