← 戻る ワン・ステーションホテル熊本

濡れたスニーカーで、誰が一番遅いか競った午後

濡れたスニーカーで、誰が一番遅いか競った午後

私たちのくだらなさを静かに見守っていた5つのもの

アイランドバーのひんやりとした大理石カウンター:指先に伝わる冷徹なまでの滑らかさと、かすかに漂うシトラスとジンの洗練された香り。氷がグラスに当たるカランという澄んだ音が、心地よい緊張感を与えてくれる。ここで「誰が一番奇妙なカクテルを注文できるか」という、大人の余裕を履き違えた賭けが始まった。「これ、本当に飲める色なの?」という誰かの困惑した声。結果的に、毒々しい色彩の飲み物が並んだとき、カウンターの冷たさが現実を突きつけてきた気がする。私たちはただ、お互いの顔を見て、堪えきれず吹き出した。

朝食の太平燕(タイピーエン)が盛られた白い皿:立ち上る濃厚な湯気が眼鏡を真っ白に曇らせ、一瞬にして視界が消える。その真っ白な世界の中で繰り広げられた、「誰が一番多く食べられるか」という、朝から全力すぎる食欲のぶつかり合い。つるりとした麺の喉越しと、出汁の芳醇な香りが漂う中、スプーンが皿に当たる小さな音がリズムを刻む。最後の一口を巡って譲り合わない私たちの姿を、この皿は呆れながら、けれど温かく見守っていたのだろう。

三人が無理やり潜り込んだ一本の傘:ビニールの冷たい感触と、肩がぶつかり合う不自由な密着感。頭上で激しく鳴り響く雨音と、足首に跳ね返る雨粒の冷たさ。濡れたアスファルトが放つ特有の匂いが、記憶の底にある懐かしさを呼び起こす。「効率的だ」なんて誰かが言い出したけれど、実際はただ、お互いの肩がびしょ濡れになるだけだった。それでも、狭い空間で肩を寄せ合い、体温を感じながら歩く心地よさに、私たちは密かに満足していた。

パリッとした白いベッドシーツ:深夜2時、部屋の照明を落とし、間接照明の淡い光に包まれた後の、本音と毒舌が入り混じるローストセッションの舞台。洗い立てのリネンが放つ清潔な香りと、肌に触れるひんやりした感触が、熱を帯びた会話を心地よく冷ましてくれた。「実はあの時、本当はこう思ってたんだよ」という誰かの告白が、クスクスという笑い声とともに部屋の隅まで響く。このシーツは、私たちの秘密と、どうしようもない格好悪さをすべて吸い込んでくれた。

エレベーターの銀色のボタン:誰かが部屋に充電器を忘れたことに気づいた瞬間の、あの焦燥感に満ちた指先の感触。カチカチと急かすように押されたボタンの、硬質な金属音。鏡張りの壁に映る、慌てふためく三人の滑稽な姿。ワン・ステーションホテル熊本の洗練されたモダンな空間の中で、私たちだけが取り残されたようにパニックになっていた。その不格好な騒動を、ボタンは無機質な表情で、静かに記録していたはずだ。

もし、この場所が口を揃えて喋りだしたとしたら

きっと彼らは、「いい加減にしろ」と深い溜息をつくところから始めるだろう。ロビーラウンジの静謐な空気が、私たちの騒がしさによって心地よく歪んでいた。大人のふりをして洗練されたホテルに身を置きながら、中身は小学生のまま。そんな矛盾が、ホテルの直線的なデザインと対照的に、とても人間臭く見えたのではないか。DJイベントの高揚感とコワーキングスペースの静寂。そのコントラストの中で、計画通りにいかないことこそが旅の正解だったのだと気づかされる。誰かが転び、誰かが笑い、最後には雨の音に耳を澄ませた。そんな名前のつかない感情の重なりが、ここにはあった。

雨上がりの澄んだ空気に、紫陽花の深い青が溶け出していた。

  • 朝食のあか牛牛丼は、胃袋だけでなく心まで満たしてくれるので、ぜひ時間をかけて味わってほしい。
  • 熊本駅から徒歩2分という近さを利用して、あえて雨の日にわざと濡れながら街を歩いてみるのもいいかもしれない。