← 戻る アンドコンフィホテル熊本城ビュー

浴衣の裾が少しだけ長すぎた夜

白いタイルの上に、小さな濡れた足跡が点々と続いている。お風呂上がりで、まだ髪から水滴が滴っている次男が、窓に張り付いて「お城が見える!」と歓声を上げた。ガラスに白い息がつき、それがゆっくりと消えていく様子を、彼は不思議そうにじっと眺めていた。石鹸の淡い香りが漂う部屋の中で、子供の好奇心というものは、いつもこういう、誰にも気づかれない小さな現象に宿るのかもしれない。


外の湿り気を帯びた夜気を脱ぎ捨てて、部屋に入った瞬間の、あの凛とした静寂。シモンズ製のマットレスに身を預けると、旅の疲れがゆっくりと皮膚から溶け出していく。裸足で歩くタイルのひんやりとした温度が、火照った足裏を心地よく鎮めてくれる。優雅な家族旅行を夢見ていたけれど、実際は荷物の整理だけで一苦労。それでも、この清潔な白いシーツの重みが、今の私には何よりの救いだった。
耳を澄ますと、遠くから市電が走るガタンゴトンという規則的な音が聞こえてくる。通町筋の賑わいが、薄い壁を通り抜けて、心地よい低周波のように部屋に溶け込んでいる。その音に混じって、廊下を走る子供たちの弾むような足音。あぁ、また走っている。でも、その騒がしさが、ここが日常の「家」ではないことを思い出させてくれる。旅の心地よさは、適度な不自由さと、予測できない生活音のあいだにこそあるのかもしれない。
朝の空気は、少しだけお出汁の香りがしていた。一階のレストランで、白い湯気が立ち上る味噌汁を啜る。熊本県産のお米の、甘くてしっかりとした噛み応えが心地よい。次男は「カレーおかわり!」と、もう三杯目の皿を誇らしげに掲げている。焼き魚の香ばしい塩気が、まだ眠っている意識をゆっくりと呼び覚ましていく。贅沢な美食というよりは、誰かに大切に準備してもらったという温もりが、胃のあたりをじんわりと満たしてくれた。
アンドコンフィホテル熊本城ビューの屋上の城見テラスに上がると、そこには夜の闇に浮かび上がる熊本城が、静かに鎮座していた。黄金色のライトアップが、網膜に強く焼き付く。目を閉じても、まぶたの裏にその光の残像が揺れている。光と影の境界線が曖昧になる瞬間、隣で夫が私の手をぎゅっと握った。子供たちの賑やかさがふっと消え、ただ城の静寂だけが私たちを包み込む。この光の残像は、きっと家に帰っても、しばらくの間消えないだろう。
子供用に用意した浴衣の裾が、少しだけ長すぎた。歩くたびに裾を踏んで、「おっとっと」とよろける次男。その様子がまるで、サイズの合わない靴を履いたペンギンのようで、思わず吹き出してしまった。帯を締め直すたびに、生地が擦れるカサカサという乾いた音が心地よい。完璧に整った姿よりも、この少し不恰好な、もどかしい時間の方が、ずっと深く記憶に刻まれる気がする。
就寝前、家族みんなで窓の外を眺めた。昼間の喧騒が嘘のように静まり返った街と、変わらずそこに在るお城。誰が何を話すでもなく、ただ同じ方向を見ている時間。欠けているところがあるからこそ、そこに誰かが入り込む隙間ができる。私たちは、そんな不完全なパズルのピースを合わせるようにして、この旅を共有していた。アンドコンフィホテル熊本城ビューのツインルームで過ごしたこの夜は、心地よい疲労感とともに、ゆっくりと深い眠りへと溶けていった。

夜風に揺れる浴衣の裾と、遠い城の灯り。

  • 子供と一緒に屋上テラスへ行き、夜のお城を眺めながら、明日やりたいことを話し合うのがおすすめです。
  • 近くのアーケード街で、子供に似合う小さな浴衣や小物を選んで、街歩きを楽しむのもいいかもしれません。