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バラの香りと、38度のお湯のあいだで

バラの香りと、38度のお湯のあいだで

老二の足の裏が、床を蹴る音を立てる。柔らかなラグがその音を吸い込み、まるで時間までもが止まってしまうかのようだ。老大が「ママ、見て!」と叫ぶ声が廊下に響き、木のぬくもりを感じる壁がその声を優しく包み込む。二人はこのホテルの床が「歩けば音が消える」という不思議に、目を輝かせていた。



「お父さん、このお湯、38度なんだよ。ちょうどいいよ」老大が湯船に手を入れ、掌にぬる warmthが広がる。湯気の向こうで、浴槽の底がうっすらと青く光り、足の裏に伝わる水圧が「ここにいてもいいんだ」と囁く。老大は目を閉じ、体の芯まで温まるのを待つ。


「ねえ、聞いた?風鈴の音」ママが小声で呟く。耳を澄ますと、微かに金属の響きが揺れる。窓は固く閉ざされているのに。その後、わかった——浴槽の縁に引っ掛けた小さな風鈴が、湯気の揺らぎに合わせて揺れていたのだ。子供たちは「風が入った!」と大騒ぎしたが、ママはただ微笑み、その音を心に刻んだ。


「このお吸い物、すごい味がする」老二がスプーンを置く。鍋には草津の新じゃがと筍が煮込まれ、春の香りが口いっぱいに広がる。温泉の湯気が鼻先をくすぐり、ママは「草津名物のわらび餅も一緒に食べよう」と小皿を並べる。老大は「わらび餅って、のどごしがいいよね」と呟く。


午後3時。西側の窓から差し込む光が、ベッドのシーツに黄緑の模様を描く。新緑の葉が揺れるたび、光の模様が揺らめき、まるで部屋が呼吸しているかのよう。老大は「まるで絵みたい」とスケッチブックを広げ、ママは「この光の下で本を読みたい」とソファに腰を下ろす。


ロビーの壁に掲げられた「湯宿 季の庭」の看板。木枠の角が少し磨り減っていて、無数の指先が触れた跡が残っている。老二は「これ、ぼくが触ったの?」と尋ね、ママは「違うよ、お客さんみんなが触りたくなるからだよ」と答える。看板の下には、小さなバラの花が一輪、静かに飾られていた。


夜8時。子供たちは布団にくるまり、就寝前のおしゃべり。老大は「今日一番楽しかったのは?」と尋ねる。老二は「湯船で足を動かした時!」と答え、ママは「この時間かな」と静かに呟く。暗闇の中で、掛け布団の温かさが体全体を包み込み、安らぎが広がる。

子供の足音が消え、大人の呼吸だけが残る部屋。

  • 草津温泉の湯畑まで徒歩15分の散策路で、バラの花を探しながら季節の移ろいを感じる
  • 湯宿 季の庭の客室露天風呂付き和風客室で、家族それぞれの「ちょうどいい」湯加減を探す