別府湾から吹き付ける冬の風が、氷の刃のように頬を鋭く撫でた。京町バス停で降りたとき、僕らは誰が一番先に道に迷うかで、くだらない賭けをしていた。結局、地図を読み間違えたのは一番自信満々だった彼だったけれど、そのおかげで予定になかった路地裏の、琥珀色の小さな灯りを見つけることができた。計算違いの心地よさこそが、旅の醍醐味なのだと、凍えた指先を擦り合わせながら笑い合った。
湯気と共に漂ってきたのは、濃厚で甘いカニの香りだった。テーブルに並んだ郷土料理の温かさが、冷え切った指先にじんわりと伝わり、強張っていた心まで解きほぐしていく。一口食べた瞬間に広がる濃厚な旨みが、胃のあたりからゆっくりと体温を上げていく感覚。美味しいものを共有しているとき、僕らの会話は心地よいリズムを刻み始める。言葉にするまでもない、静かな合意のようなものがそこにはあった。
「完璧なスケジュールを組んだはずなのに」と、誰かが情けない声を漏らした。レックスホテル 別府のインフィニティ露天風呂の縁に浸かりながら、私たちは互いの計画性のなさを、湯気に紛れて笑い合った。お湯の表面に張った薄い膜が、冬の冷気に触れて小さく震えている。完璧であることよりも、潮の流れに身を任せるように適当に流されることの方が、今の僕らには心地いい。
深夜の廊下で、誰が一番静かに自販機まで行けるかという、大人のすることとは思えない潜入作戦が始まった。足音を消して忍び寄る、心臓の鼓動が聞こえそうなほどの緊張感。結局、誰かが派手に咳き込んで作戦はあっけなく失敗に終わったけれど、その後の爆笑が部屋に充満した。そんなくだらない時間が、記憶の底に一番深く、心地よく沈殿していく。
専用バルコニーに出ると、別府湾の深いインディゴブルーが視界いっぱいに広がっていた。海と空の境界線が溶け合い、どちらがどちらなのか分からなくなる。静まり返った世界で、ただ波の音だけが規則的に耳に届き、潮の香りが鼻腔をくすぐる。一人でいても寂しくないし、誰かといても邪魔されない。そんな絶妙な距離感が、この場所には流れていた。
裸足で踏んだ琉球畳の、しっとりと吸い付くような質感が心地いい。早朝の部屋に響く、ドリップコーヒーが落ちる規則的な音と、香ばしいアロマ。カップから立ち上る白い湯気が、ゆっくりと空気に溶けていく様子を、ぼんやりと眺めていた。バスルームまで歩くわずか数歩の距離さえも、この静寂の中では贅沢な時間を持っているように感じられた。
カウントダウンの時間が近づき、街のイルミネーションが激しく明滅し始めた。騒がしい歓声が波のように押し寄せ、そして一瞬の、真空のような静寂が訪れる。その空白の時間に、隣にいる友人の肩の温もりを、コート越しに感じた。言葉を交わさなくても、同じ時間を共有しているという事実だけで、胸の奥がじんわりと熱くなった。
旅の終わりは、いつも緩やかな引き潮に似ている。レックスホテル 別府で過ごした時間は、個別の出来事ではなく、一つの大きな潮流となって僕らの中に組み込まれた。欠けている部分があるからこそ、誰かがそこを埋められる。不完全な僕らが集まって、一つの心地よい周波数になったような、そんな感覚だった。
夜の海に溶けていく、遠い街の灯り。
- インフィニティ露天風呂から眺める夜景は圧巻。あえて黙って、お湯と景色に溶けてほしい。
- 朝のドリップコーヒーを淹れて、バルコニーで海を眺める時間は、絶対にスケジュールから削らないで。