6月の函館は、空気がずっと濡れている。紫陽花が重たく頭を垂らし、街全体が深い青色のフィルターを通したみたいに、しっとりと静まり返っている。そんな街の中で、HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELS の重厚な扉を開けると、そこにはかつて銀行だった場所だけが持つ、独特の「静寂の重み」があった。磨き上げられた真鍮の取っ手の冷たさと、古い建築が湛える落ち着いた木の香りが、外の喧騒を遮断してくれる。
「ねえ、ここって博物館なの?」と、子供たちが声を弾ませた瞬間、厳格だったはずの空間は心地よい不協和音に満たされる。完璧な旅なんてない。靴は泥で汚れ、誰かが不機嫌になり、予定は簡単に崩れる。けれど、かつて金庫に大切に保管されていた財宝のように、その乱雑さこそが、後で思い出すときに一番温かい温度を持っている気がする。ここは、お金ではなく、家族の記憶を預けるための場所なのだ。
家族で分かち合った、五つの記憶の断片
深い青色のラウンジソファ:指先から体温を吸い取るような、ひんやりとしたベルベットの質感。古い本と雨上がりの街が混ざり合ったような、少しだけ切ない匂いが漂っている。それを最初に発見し、迷わずダイブしたのは、好奇心旺盛な次男だった。彼はそこで、このホテルが昔は銀行だったことを知り、道端で拾ってきた石ころをフロントに「預金」しに行こうとしていた。
ハッチャギ・カレーバーの湯気:スパイスの刺激的な香りが、雨で冷えた鼻腔をゆっくりと広げていく。眼鏡が白く曇り、額にまとわりつく温かい湿気。一口食べた瞬間に、胃のあたりからじわりと緊張が解けていく感覚。疲れ切った表情で、けれど誰よりも幸せそうにその黄金色の温もりを堪能していたのは、父親だった。
ジュニアスイートの裸足の温度:メゾネット構造の階段を駆け上がるたびに小さく響く、子供たちの足音という名のパーカッション。外の湿り気を帯びた空気とは対照的な、さらりと乾いた床の心地よい感触。この温度に最初に気づき、「ここ、お城みたい!」と歓声を上げたのは、長女だった。彼女にとって、この空間の広さは自由の大きさと等しいのかもしれない。
赤レンガ倉庫で拾った小さな石:表面はざらざらとしていて、雨に濡れて濃い灰色に変わった、何の変哲もない石ころ。けれど、小さな手のひらの中で転がすと、旅の記憶が凝縮された宝石のように感じられた。この「旅の証拠」を一番に拾い上げ、絶対に離さないと宣言したのは、末っ子だった。
屋上テラスに降る雨の音:激しくはないけれど、絶え間なく屋根を叩く一定のリズム。空気の中に混じる、濡れたアスファルトと紫陽花の青い匂い。すべてを洗い流してくれるようなその静寂に、ふっと深く息を吐き出したのは、母親だった。一人でいる時間ではなく、家族がすぐ近くにいると感じながら味わう孤独のような、贅沢な時間だった。
雨音が止んだとき、私たちはただ、お互いの顔を見て笑っていた。
- 朝食のモーニング・スープカレーは、野菜の甘みが強く、子供たちでも食べやすい優しい辛さなのでおすすめ。
- 赤レンガ倉庫まで徒歩5分。あえて大きな一本の傘に家族全員で入り込み、肩を寄せ合って歩いてみてほしい。