← 戻る HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELS

金属の鍵の冷たさと、止まらなかった笑い声

金属の鍵の冷たさと、止まらなかった笑い声

ロビーに充満する、湿ったウールコートの重たい匂い。僕ら三人は、誰が先にフロントへ行くか、寒さに震えながら静かに譲り合っていた。11月の函館は、空気が鋭い。外から一歩踏み出した瞬間に肺の奥まで冷やされるけれど、HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELSの重厚な扉を開けたとき、そこには外の世界とは切り離された、緩やかで温かな時間が流れていた。

凍えた心まで溶かした、予想外の5つの断片

朝のスープカレーと、熱のタイムラグ
朝7時、まだ街が眠りについている時間に、鼻腔をくすぐる刺激的なスパイスの香りに包まれる快感がある。HACCHAGI CURRYBARで運ばれてきたスープカレーの白い湯気が顔にかかった瞬間、凍えていた鼻先がじわっと溶けていく。口に運んでから、熱が胸の奥まで届くまでの数秒のラグ。「これ、辛すぎない?」と互いの顔を見合わせ、結局みんなで汗をかきながら完食した。あの温度の移動こそが、旅の心地よい号砲だったのかもしれない。

元銀行の壁が記憶する、静寂と喧騒のコントラスト
ロビーラウンジの深いブルーに囲まれていると、ここがかつて銀行だったことをふと思い出す。かつては厳格な顔をした人々が、人生の資産を預けていた場所。でも今は、僕らがスニーカーで床を鳴らし、くだらない冗談を言い合っている。格式高い建築の「硬さ」と、僕らの会話の「緩さ」がぶつかり合い、不思議な心地よさが生まれていた。僕らはそのギャップに心地よすぎて、予定していた観光ルートを半分ほど忘れ、ただラウンジに居座ってしまった。

赤レンガ倉庫への道、指先が忘れた寒さ
ホテルから歩いて数分。11月の風は、コートの隙間を容赦なく通り抜ける見えない針のようだった。「ぶっちゃけ、今すぐ引き返したい」という本音が口をついて出そうになる。けれど、目の前に広がった赤レンガ倉庫と、点り始めた琥珀色のイルミネーションを見たとき、寒さで震えていた指先が、ふっと感覚を失うほどの感動に塗り替えられた。凍えるような寒さに耐えて歩いたからこそ、光の温かさがより鮮明に、胸に深く突き刺さったのだと思う。

シェアキッチンで繰り広げられた、不器用な作戦会議
誰が飲み物を淹れるかで揉めた結果、結局三人で狭いキッチンに押し込まれた。肩がぶつかり、グラスがカチカチと小さな音を立てる。ただお茶を淹れるだけなのに、まるで複雑なチーム作戦を遂行しているような、妙な緊張感があった。しかし、誰かがお湯をこぼしそうになって全員で大爆笑したとき、この不自由さこそが「一緒に旅をしている」という確かな実感なのだと気づかされた。笑い声が、キッチンの狭い空間に心地よく反響していた。

バンクツインの二段ベッドで分かち合った、深夜の密やかな時間
バンクツインの部屋に潜り込み、二段ベッドの梯子を登る。上の段から下の段へ、あるいはその逆へ。暗闇の中で、誰かの穏やかな寝息と、かすかに聞こえる港町の夜の音が混ざり合う。普段なら気にするはずの物理的な距離感が、ここでは不思議と心地よい。むしろこの密閉された空間が、僕らの心の境界線を曖昧にしてくれた。明日どこへ行くかという計画さえどうでもよくなるほど、ただ今の静寂を共有していたいと願った、静かな夜だった。

散らばった記憶が、ひとつの物語に変わるまで

完璧な旅なんて、本当はつまらないのかもしれない。予定通りに進まないもどかしさ、寒さに震える身体、狭い場所でぶつかり合う肩。そんな小さな「ズレ」や「遅延」こそが、旅の輪郭をはっきりとさせてくれる。HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELSという場所は、僕らにとって単なる宿泊先ではなく、互いの不完全さを笑い合えるための大きな金庫のような場所だった。元銀行の堅牢な壁に守られて、僕らはただの「観光客」ではなく、心地よい空白を共有する「仲間」に戻れた気がする。

紺色の夜空に、ホテルの黄色い灯りが雨上がりの水溜まりに溶けていた。

  • レンタルサイクルで赤レンガ倉庫まで、冬の風を切って走ってみてほしい。
  • 朝のHACCHAGI CURRYBARで、心まで温まるスープカレーに身を委ねて。